やっぱすっきゃねん!VO-16
夕食が始まった。
「佳代。よそってあげて」
佳代は言われるままに、直也の皿に煮込みハンバーグと炒め物を取り分けてあげた。
「ハンバーグのソースに野菜をひたして食べるの。家の定番なんだよ」
直也はひと口食べた。
「うまい!」
開口一番の奇声に、加奈は目を細める。
「それねえ。佳代も手伝ってんのよ」
「ええっ!?」
直也は、加奈の言葉が信じられない。
「これ…おまえが作ったのか?」
佳代は大きく首を振っている。
「…ハンバーグ作るのと、焼く時にやっただけだよ」
「それにしたって凄いじゃないか!おまえが料理やるなんて、知らなかったよ」
あまりの褒め言葉に、佳代は照れてしまう。
「それがさ。去年の冬にグラブとバット新しくしようと思ったらお金足りなくて。
仕方なく父さんに相談したら、家の手伝いするならって不足分出してもらったの」
その件なら直也も憶てる。スポーツ・ショップについて行って、4万円近い金額を払っていた。
その時は“恵まれてるんだ”と思ったが、どうやらそれは見当違いだったようだ。
「姉ちゃんは、炒飯やオムライス、ナポリタンなんか上手ですよ」
「へぇー、コイツが。想像出来ねえな」
修との会話に、直也はつい、本音を漏らしてしまった。
「何よ。その云い方」
「い、いや…その、悪かった」
必死にフォローする直也だが、佳代は許すつもりはない。
「わたしだって野球ばっかりじゃないんだよ!母さんに教わって、料理上手になるんだからッ」
勢いなのだろう。誰も聞いたことも無い夢をのたまう。聞かされた加奈と修は、クスクスと笑いだす始末だ。
「な、何がおかしいのよ?」
ふくれっ面で云い返す娘に、母親は意地悪な言葉を返す。
「だったら、10年は頑張ってもらわないとねえ」
「ええッ!10年も」
「そうよ。わたしが結婚する時は、お祖母ちゃんにそれ位仕込まれたんだから」
予想だにしない結果に、佳代は冷水を浴びせられた思いだ。
「…だったら、何でも食べる人と結婚する」
「そんなに慌てなくていいわよ。わたしなんか、20歳までやったこと無くてね。
お父さんと一緒になったのが22歳。だから毎日、お祖母ちゃんがアパートに来てたわ」
「毎日!?わたしじゃ無理だよッ」
「わたしだってそうだったわッ。“うわっ!また来たッ”って、すごくイヤだったもの…。でも、今はいい思い出ね」
2人のやり取りを見た直也は羨ましくなった。
いくら家族でも男ではこうはいかない。両親との会話も途切れ々になって、妙な“緊張感”が生じてしまう。
だが、ここにはそれがまったく見当たらない。各々が思ったことを云い合いながらも、必ず笑顔がある。
(この両親あればこそだな…)
直也は、佳代の根っこにあるモノを垣間見た気がした。