やっぱすっきゃねん!VO-15
「なんですって!?」
受話器から聞こえた言葉に、一哉は声を荒げた。事務所にいる仲間逹が、思わず振り向くほどに。
受話器の向こうは、永井だった。
「…ですから、2回の攻撃中に佳代が左肩を怪我しまして」
繰り返された事実に、一哉は知らぬうちに額に手を当てていた。
「…正直、初回の出来が期待させるものだったので非常に残念です」
悔しさ溢れる声は続いていた。
「受けた山下の話では、スピード、キレとも春先を上回ってたと云ってるんです。
上手くいけば、先発もこなせる中継ぎにと考えてたんですよ」
一哉の顔に、厳しいモノが浮かんだ。
(コイツ…至極の才能を、エゴイズムで潰すつもりかッ!)
一哉は知っている。“勝利至上主義者”によって、どれ程の才能溢れる若者が潰されたかを。
ただ、今は云い争っている場合ではない。
一哉は、自分を圧し殺して受話器に向かった。
「…どうでしょう?これまでも、本人の意思で無理な投げ込みさせてましたから、明日以降はベンチから外すというのは」
一哉の提案を永井はあっさり飲んだ。
「仕方ありませんね。明日以降は、肩を使わないトレーニングをやらせます」
電話は切れた。
「…何とかしないと」
哀しそうな眼が、電話を見据えていた。
夕闇が辺りを包む頃。澤田家では、いつにも増して賑やかしい夕食を迎えていた。
「ご飯たくさん炊いたから。遠慮しないでね」
テーブルに並んだ料理の量に直也は圧倒された。
大きな土鍋で煮込まれたハンバーグに、夏野菜とキノコの炒め物。極めつけは、30センチはある皿に盛られたヒジキの煮付け。
「おまえん家。これ食うのか?」
さす指先に、動揺が表れる。
「今日はちょっと多いかな。アンタの分くらい」
ノンシャランな表情の佳代。
「今日はお父さん、残業でご飯いらないって云ってたからね。6合炊いたんだから、残さず食べるのよッ」