やっぱすっきゃねん!VO-13
「病院には、行ったの?」
つき離した口調。
「…はっきり解らないから、明日、もう一度来なさいって。痛み止めと、湿布もらった」
「アイシングは?」
「さっきやった」
一応の話を聞いて、加奈は笑みを娘に向けた。
「わたし安心したわ。アンタが取り乱してないなんて」
そんな母親の顔に、佳代は力ない笑顔を浮かべ、
「…本当はね。ベンチ裏で泣いたの。そうしたら、葛城コーチに……」
葛城とのやり取りを、とつとつと語りだした。
「思い切りビンタされて…厳しく叱られて…コーチも泣いてて…」
言葉が嗚咽に変わった途端、佳代は加奈に抱きつき、胸に顔をうずめていた。
「うう…ひっ…」
悔しさが堪えきれない。そんな佳代の髪を、加奈の手が優しく撫でた。
「なによ、わたしより大きなナリしてて」
「…だって…だって…」
娘なりに必死だったのだろう──。加奈はそう思った時、両手を佳代の背中に回した。
幼稚園の頃。よく、こうして抱いてあげていた。
「今だけだからね。修が帰って来るまでに、気持ちを切り替えなさい」
「…うん…」
久しぶりに抱き締めた娘の身体だった。
「まったく!姉ちゃんはバカなんだから」
「うるさいよ!アンタはネチネチとッ」
夕方。キッチンに並ぶ2つの影。加奈と佳代が、仲良く夕食の支度に忙しんでいると、その向こうのダイニング・テーブルに腰かけた修が、今日の試合経過を話して聞かす。
特に姉のことに関しては容赦ない。微に入り細に入り話す上、私評まで混じえるモノだから始末に置けない。
最初はガマンしている佳代だが、あまりの云いように感情がエキサイトし始めて、最後は互いの云い合いが始まる。
普段なら佳代の圧勝で終わるのだが、時折、そうでない場合もある──修が核心を突いてる時だ。
そして、そんな時には、
「いい加減にしなさいッ!」
決まって加奈から大目玉を食らう。
「修もしつこい!佳代のことはいいから、テーブルの上を片してきなさいッ。アンタもアンタよ!いちいち修の云い分に反論しないのッ」
これで2人共口をつぐむ。まだまだ、母親は怖い存在なのだ。
キッチンの喧騒がようやく収まりかけた頃、ドア・フォンのアラームが鳴り響いた。