やっぱすっきゃねん!VO-12
「病院で診断しないと何とも云えないけど、最悪の場合、大会中は無理だわ」
「そんな…」
ようやく掴みかけた望みが、両手からすり抜けた瞬間。
「…あああァーーッ!」
佳代は大声で滂沱した。
失ったものが大き過ぎて、止めることが出来ない。
その時だ。佳代の左頬を衝撃が走った。
「しっかりなさい!こんな事で挫けてどうするのッ」
頬を押さえて視線を上げると、大粒の涙を流している葛城の姿があった。
「もっと自分を強く持って。じゃないと、あなたの才能を引き出してくれた藤野さんに何て言い訳するのッ」
彼女が初めて見せた、佳代への怒りだった。
「…コーチ」
「しばらくアイシングしたら、すぐ医務室に行きなさい。家には誰か居る?」
「いえ。でも、1人で行きます」
「監督にはわたしから云っとくから、そのまま病院に行くのよ」
そこまで云うと、一転、今度は佳代の両手を取って目線を合わせる。
「大丈夫。あなたが治るまで、わたし逹は勝ち続けてるわよ」
慈愛に満ちた、優しい眼に見つめられ、佳代は落ち着きを取り戻していた。
「ありがとうございます」
「じゃあ、アイシングしましょう」
葛城はクーラー・ボックスから保冷剤を取り出した。
午後3時半。加奈はいつものように、仕事から帰って来た。
彼女は、自宅からクルマで10分ほどの場所にある、子ども服の店で1日数時間の勤務をこなし、食材を買って戻ってくるのが日常だった。
「ただいま〜」
玄関ドアを開けた加奈は、誰も居ないハズの家の中に挨拶する──いつもの癖だ。
のハズなのに、今日に限ってリビングの扉が開いた。
身構える加奈。
「お帰りなさい。母さん」
現れたのは佳代だった。
「なんで?試合は?」
加奈には解らない。試合からすれば、まだ帰ってるには早すぎる。何より、一緒の修が居ない。
佳代は、母親の心配ようが解った。
「試合は勝った。6-1だったって」
「だったってって…アンタ…」
「それが、試合中に怪我しちゃってさ…先に帰された」
そう云って俯いた娘。加奈はかける言葉を模索した──優しさ以外の。