やっぱすっきゃねん!VO-11
「監督。タイムを取って下さい」
「なに?」
永井は、不可解といった顔をした。
「アイツ…澤田は、今ので左肩を怪我してます。時間を稼いでくれませんか」
「なんだと!?」
3塁に目をやる永井。確かに、左肩に手をそえている。
「タイムッ!」
永井は慌ててタイムを取った。そして、中里に伝令に向かわせた。
それらを見届けた直也は、下加茂を連れてブルペンへと入った。
最悪の状況を想定して。
「澤田さん!」
「中里…」
中里が、コールド・スプレーを携えてやって来た。
「大丈夫ですか?かなり痛そうですけど」
「分かんない。多分、無理じゃないかな」
「どこが痛むんです?」
「こ、この辺り」
中里は、佳代の指した場所にスプレーを勢いよくかけた。
もうもうと舞う白煙と共に、急激な冷気が左肩に染み渡る。
「どうです?」
佳代は冷えた肩を少し回してみたが、鎖骨の先辺りの痛みは変わらない。
「ダメだね…」
「そうですか」
中里は、ベンチに合図を送った──駄目だと。
それを見て、今度は稲森が主審の元へと駆けだした。
「背番号12の代走に、背番号10が入ります」
主審に交代を告げて、3塁に向かった。
「佳代。交代だ」
「でも…」
佳代は口をつぐんだ。
(今の状態じゃ、次の回は無理だ…)
「分かった。省吾、よろしく」
一転、明るい顔を稲森に見せてベンチへ引き揚げた。
「ちょっと、いらっしゃい」
ベンチでは、葛城が待っていた。佳代は、すぐに裏へと連れて行かれた。
「ユニフォーム脱がすわよ」
葛城の手が上着を脱がせる。下に身に着けた、黒いノースリーブ。
生地越しに指先が患部に触れた途端、佳代の眉間に苦痛のシワが浮かんだ。
「おそらく、軽い亜脱臼ね…」
葛城の口が、辛い現状を告げる。
「あ、明日には治りますよね?コーチ」
すがり付くような眼が葛城を捉えた。が、彼女は無情にも語った。