幼年編 その四 妖精の里-14
**――**
「フローラ! 一体どこに行っていたんだい? 外で魔物に襲われたのかと思って心配したよ……」
フローラがサラボナの街に戻り、噴水の傍で佇んでいると、金髪の少年が慌てて走ってくる。彼の名はアンディ・ラーズ。ラーズ商会の一人息子で、フローラの幼馴染だ。
金糸で刺繍のされた服は品のよい調和を誇っており、年のわりに大人びている風もある。
「ええ、ちょっとイタズラな風に誘われまして……」
「風に? そう……でも急にいなくなったりしないでくれ。僕は君にもしものことがあったら心配で心配で……」
ほっとした様子で肩をすくめるアンディ。
「ええ。ですがきっとアンディなら私のことを守ってくれると信じていますわ……」
フローラは彼の左やや後ろに立つとその腕を取り、
「頼りにしておりますわ、アンディ……」
そう呟く。
「ああ、君が困っていたら僕は何をも省みず、きっと助けにいくよ!」
そう誇らしげに語るアンディの背後でそっと覚えたての印を組むフローラ。そして……。
「……大地のイタズラな精霊よ……、えい、アガム!」
彼女がそう言うとかちゃりと音を立ててアンディのベルトのバックルが外れ、ずさっと落ちてしまう。
「わわ! なんだ!」
慌ててズボンとパンツをあげようとするアンディだが、可愛らしい象さんはしっかりとフローラの目に焼きついており。
「まぁ!」
彼女は頬を赤らめながら口元を両手で覆う。それはもちろん、笑っていることを隠すため。彼女が鍵の技法を教えてもらえなかった要因であろう……。
続く