愛しのお菊ちゃん1-5
ソファに僕と並んで座った幽霊さん。
もう泣き止んでいるけど。
緊張してるみたいに自分の足元をジッと見つめている。
僕もかなりドキドキ。
幽霊さんとは言え、こんな可愛い子と二人っきりで。
すぐとなりに座ってるなんて初めてだったからね。
でも…この幽霊さんの事をよく知りたかったから。
「ね?お名前は何ていうの?」
僕の言葉に顔を上げる幽霊さん。
つぶらな瞳を僕にむけて。
「…菊と申します」
お菊ちゃんかぁ…可愛いなぁ。
お菊ちゃんは下唇をグッと噛みしめて。
大きな瞳をパチパチとしぱたいて僕を見つめてる。
なんか聞きたいのかなぁ?あっ!
「僕ね…俊樹」
「…俊樹さま」
僕の名前を噛み締める様に呟くお菊ちゃん。
凄くズキッときた。
にしても…さまって。
僕は微笑みながら。
「俊樹でいいよぉ」
「なりませぬ…俊樹さまは俊樹さまにございます」
お菊ちゃんはニッコリと笑ってる。
僕もお菊ちゃんにもう一度、ニッコリと笑いかける。
なんかメチャクチャ楽しくなってきてた。
「お菊ちゃんはどうして?僕の前に出てきたの?」
自然と言えば自然な疑問だったけど。
僕のその言葉を聞いた時にお菊ちゃんの表情がちょっと曇った。
あっ!そんな顔しないで…お菊ちゃん。
「あ!あの!迷惑とかで言ってるんじゃないからね!勘違いしないでね」
慌てお菊ちゃんの笑顔を取り戻そうとする僕。
「…ほんとう?」
ハラハラとした様な瞳で僕を見上げてくるお菊ちゃん。
「ほんとうだよ!」
満面の笑みで応える僕。
「…ほんとに…ほんとう?」
まだ心配そうなお菊ちゃん。
なんか…この辺は普通の女の子っぽい。
「ほんとうだよ…お菊ちゃんに来て貰って嬉しいんだから…僕」
僕はクスクスと笑いながら本気の気持ち。
「うれしゅうございます…菊は誠にうれしゅうございます」
お菊ちゃんの顔がパッと明るくなった。
「おきぃぃくちゃん」
僕も滅多にない幸せをニマニマと噛み締めてる。
そんな僕を見つめ返しながら…。
「本日…菊はお礼を申し上げに参りました」
上目遣いで照れくさそうなお菊ちゃん。
「えっ?」
僕はキョトン。
「先刻…俊樹さまに御参りして頂き…供え物まで頂きましたゆえに」
口許を着物の袂で隠してクスクスと笑ってる。
あっ!昼間の石碑みたいなやつか!
「誠においしゅうございました」
ほんのり両頬を赤らめてるお菊ちゃん。
色が白いから…可愛いらしさが一段と引き立ってる。
けど…美味しいって?
あっ!飴玉かぁ!
「まだ、あるから…ちょっと待ってて」
「いえ…その様なお気遣いは無用にございます」
立ち上がろうとする僕の腕を押さえるお菊ちゃん。
おっ!ちゃんと感触もある。
僕は嬉しくなって、お菊ちゃんのその手を見つめちゃう。
「す…すみませぬ」
真っ赤になって顔を背け、その手を放すお菊ちゃん。
いや…まじで可愛い。
「いいから…いいから…待ってなって」
僕はお菊ちゃんをもっと喜ばせたくて飴玉を取りに…。
しかし、今の女の子にはない奥ゆかしさ。
お菊ちゃんって本当に可愛いなぁ。
僕はしっかりと恋に落ち始めていた。
つづく