愛しのお菊ちゃん1-4
「あ…あの…どうしたんですか?」
もう一度思いきって声をかけたんだ。
女の人…幽霊さんかもしれないけど。
なんか悪そうな人じゃないし。
なにより本当にかわいそうな感じで泣いてるから。
僕は頑張って恐怖心を押し殺したんだ。
「お皿を…」
幽霊さんの鈴の音の様な声。
ん?可愛い声してんな。
ってホントに僕は!……けっこうタフかも。
「お皿を…どうしたんで…すか?」
尋ねる僕。
少しつづ怖さが薄らいできてる気がする。
「お皿を…割ってしまいました」
「えっ!だいじょぶ!ケガない!」
僕はなんとも間抜けとも取れる心配をしてる。
幽霊さんが俯いていた泣き顔を上げた。
ちょっとタレ気味の大きな瞳。
髪型のせいかちょっとデコだけど…愛くるしい広い額。
か…可愛い!
タイムスリップしたお医者さんから現代の医学を学んでいたあの人に似てるなぁ。
もうすぐ第2部が始まるだよなあのドラマ。
………なんて気楽な事を考えてんだ!僕は。
って感じになっちゃう程、その幽霊さんは可愛いかった。
「か…かたじのう…ございます」
完全に時代劇の言葉に僕は。
「へっ?」
間の抜けた声が出ちゃうけど。
なんか、かなり最初の怖さが薄らいできた。
「わたくしの様な者の心配をして…」
「当然だよ!お皿なんか別にいいし、君がケガをしてないかだけが心配だよ!」
僕はゆっくり立ち上がった。
しかし不思議だ。
普通の女の子にはこんな事、言った事がないせいか。
ちょっとドキドキしていた。
それは怖さとは別物だよ。
「う…うれしゅうございます」
幽霊さんが小さくニコッとした。
う!益々可愛い!
「ね!本当にケガない?」
その笑顔に惹き付けられる様に僕は幽霊さんに近づいていた。
ハニカミながらコクっと頷く幽霊さん。
僕はもう完全に怖くなくなっていた。
そして。
「あ…あのさ…此処は危ないから…こっちにおいでよ」
誘ちゃった!幽霊にこっちにおいでって言っちゃった。
仕方ない…かな。
幽霊さんって言ってもすっごく可愛い女の子だし。
邪気みたいな物は全くないし。
だからもう一度。
「さぁ…こっちへおいでよ」
僕は幽霊さんにニッコリと微笑みかけた。
とは言え。
考えてもみなかった来客。
僕はまだ少し震えながら幽霊さんがこっちに来るのを見守った。
幽霊さんだからスゥゥって滑る様に動いてくるのかなぁ。
って思いきや。
幽霊さんは内股でチョコチョコ歩いて近づいてきた。
うわっ!本気で可愛い!
僕は自然に心から微笑んでいた。