異界幻想ゼヴ・セトロノシュ-8
「気が利くな。さてと……」
男は、鎧に向かって手を伸ばした。
「あ……」
鎧の姿が歪み、霞み……男の手の平へと吸い込まれる。
呆然としている深花から、男は手を離した。
「無理矢理巻き込んで悪かった。俺はジュリアス。お前の名は?」
訳が分からぬままに巻き込まれたこの状況に、ようやく明確な説明がつくらしい。
「……み、深花」
男の質問に、深花は素直に答える。
「深花、な。あまり聞かない音だが、いい名だ」
ふわりと男……ジュリアスは笑った。
真紅の瞳が、ルビーの色に煌めく。
「お前、自分の先祖の事を知ってるか?」
自分の先祖。
唐突な話に、深花は眉をしかめた。
先祖代々ごく普通の農家とサラリーマンで、地味に真面目に堅実に……。
「いや、俺が聞いてるのは父方の祖母の事だ。ああ……顔も一致する」
自分の首にぶら下がった赤いペンダントをいじりながら、ジュリアスは話を詰める。
「ぅん?ああ……祖父の上に降って来たぁ!?」
深花が思い浮かべた事を、ジュリアスは読んでいた。
父方の祖父は……こう言っては何だが、幼少から少し頭の働きに問題のある人だった。
でも気性は穏やかだし、言い付けられた事は真面目にこなすし、それ以外の問題はないので家族からは可愛がられていた。
ある日、一緒に畑仕事に出ていた今は亡き大伯父が小用を足そうと畑から少し離れた所へ分け入った時……祖父のそばに空から何かが降って来たという。
それが、祖母だった。
祖母は祖父を見た瞬間にそれを察知し、大いに同情したそぶりを見せたという。
そして額を寄せて何かを唱え、祖父を抱きしめた。
祖母が離れた時、祖父の頭の働きは人並み……いや、並より優れた働きをするようになっていたという。
代わりに祖母は少々ボケてしまったらしいが、祖父はこの事に深く感謝し、祖母の保護を決意。
色々とごたつきはあったらしいが祖母は祖父の元に留まり、祖父は言葉の通じなかった祖母に日本語を教え、やがて結婚。
今に至る……。
「つまり、お前の祖母は本当はどこの国の出身で何という名前なのか、本人以外は誰も知らないって事だよな?」
ジュリアスの言葉に、深花は頷いた。
「俺はそれを知っている。お前の祖母の本名は、イリャスクルネ。階級は土の最高位ミルカを有し……ある日そちらの世界へ逃亡した、裏切り者だ」
ジュリアスの言葉が、不吉な色を帯びる。
「まあ、今それは関係ないな。祖母の罪を、事情を知らないお前に被せる義理はないだろうから」
肩をすくめ、ジュリアスは続けた。
「簡潔に言うとお前の祖母はもともとこちらの人間で、かなり強力な能力を有する貴重な戦力だった。その祖母の血を色濃く引き、継承者の証であるペンダントを受け継いだお前はこの世界にある限り俺達と行動を共にし、神機のサポートを行う義務が課せられるだろう、って事だ」
「う……」
途中から、ジュリアスの言っている事が分からなくなる。
深花の理解力が足りないのではなく、堪え難い異変が体を支配し始めていたのだ。
体が熱い。
股間が火照る。
「あぅ、あ、あ……!」
深花は、片手で頭を抱えた。
そして鎧の中から出て来た途端に纏った服の上から、胸をわしづかむ。