幼年編 その三 レヌール城のお化け退治-7
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朽ちかけた城はあちこちに穴があり、場合によってはそれを利用しつつ、城の中心部であろう方へと向かった。
シドレーの炎に誘われるかのように次々と魔物がやってくる。
海蛇の骨が人骨をすげられ、そこに悪意が集まって能動体となるスカルサーペント。
発光物質が集まり、それを悪意が指揮をとるウィルオウィスプ。
単純なイタズラな生命体のゴースト。
これまで見たことが無い魔物を前に、一人と一匹は怯むことなく突き進む。
炎が闇を切り裂き、真空魔法が敵を霧散させる。
最初闇雲に進んでいたリョカ達だが、徐々に攻勢が激しくなる場所こそめぼしいと見抜く。
その推測は正しかったらしく、一人異質といえる雰囲気をかもしている魔物を見つけた。
「お前がここのボスか!」
リョカが問うとボスはもろ手を挙げて平謝りをする。
「ち、違います。違います。あたしゃただの魔法使いでげす。ここに座っているだけでいいって言われて……。あの、親分ゴーストならもう逃げていまして……」
「なんじゃい、気が抜けるな! ま、俺ら無敵のコンビにゃ、たかが幽霊のボスなんざ尻尾巻いて逃げるほかあらへんしな!」
豪快に笑うシドレーだが、リョカは違う。
「嘘だ! もし外へ逃げたのなら王様の雷が落ちる。そうじゃないってことはコイツが嘘をついてるんだ!」
「なんやて!?」
「ち、だまされていればよいものを!」
魔法使いを名乗っていた魔物はどこからか杖を取り出し、炎の塊を中空に作る。
「メラミレベル……というか、まあまだ弱いな……。危ないど、坊主には」
「はっは! 死ね! メラミ!」
魔法使いの放つ火炎の塊にリョカはさっと身を交わす。だが、シドレーは微動だにしない。
「シドレー危ない!」
「ん〜ん。全然……!」
シドレーは大きく口を開くと、カッと閃光を走らせる。それは魔法使いのメラミを飲み込み、逆に押し返した。
「な! なんじゃって〜!」
突然のことに驚く魔法使い。だが、容赦なく炎が彼を襲う。
「きひぃ!」
寸前で何とか避けるも今のが最高の魔法だったらしく、油汗をかいているのが見える。
「おうおうリョカ。俺のこと散々メラリザードとか言ってくれたな? どや。俺のメラは! すごい威力だろ?」
ニヤニヤと笑うシドレーにリョカははいはいと返すのみ。
「けどま、今のが全力なら、坊主が下がるだけで完封やど? どうする? 自分」
「く、っくっくぅ……。だが、あの女の子はどうする?」
「金ジャリか? まあそれ言われると辛いな。んでも、それ切り札になると思うん? もし金ジャリ死んだら俺も坊主も手加減なしやで? 外も爺さん居るしな」
「なっ!」
「金ジャリ生きてる限りお前も生きてられる。けど、もしそうなったらなあ……」
「シドレー、あんまり刺激しないで……」
ビアンカの生死がかかる状況にリョカはシドレーを諌める。だが、王様の話によればビアンカの命に猶予が限られているのがネック。リョカとしては難しい状況だ。
「わ、わかった……。それじゃあこうしよう。その子の元へと案内する。その代わり、俺を見逃してくれ」
「わかった!」
即答するリョカにほっとする魔法使い。彼は壁伝いに立ち上がり、暗がりにある紐を引っ張る。すると突然リョカの足元が開き、そのまま真っ逆さま。
「おいリョカ! おまえ、嘘言うたな!」
再び炎を溜め込むシドレー。けれど、
「ラリホー!」
強制睡眠魔法を唱えられ、シドレーは目をしばたかせ、そのままふらふらと奈落へと消えた……。
「へっへっへ……これでお前ら化け物の餌だ……」
ほっと一息つく魔法使い――ではなく親分ゴーストは再び漆黒の闇に隠れた……。