幼年編 その三 レヌール城のお化け退治-15
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「ねえ、この猫の名前なんにする?」
ビアンカの腕の中で眠そうに顔を擦る猫。たまに欠伸をしたりするが、どうやら落ち着いているらしい。
「そうだね。僕考えたこともなかったよ」
「そうねゲレゲレなんてどうかしら?」
「金髪娘、ネーミングセンス最悪だな」
「うっさい! んー、もっとカッコイイのがいいな。そうね、ガロンなんてどう?」
「ガロン? そうだね。それはかっこいいや! これからよろしくね。ガロン!」
リョカがそう言うとガロンは「にゃあ」と答えた。
「おーい、リョカ……もうサンタローズに戻るぞ? したくはよいか?」
「あ、父さん! ちょっと待って……」
宿の前で旅支度を終えたパパスが手を振っているのが見えた。リョカは声を張り上げたあと、一度ビアンカに向き直る。
「ビアンカちゃん。僕ね、今は父さんと旅をしてるけど、もう少し大人になったらきっとビアンカちゃんを迎えに行く。いい? 僕、その時は……」
「その時は、そうね、続きを聞かせて……」
精一杯大人びたつもりだったリョカだが、彼女の不思議とぞくぞくさせる微笑と、唇に当てられた人差し指の弱い力に続きが言えなくなった。
リョカは何も言えず、ただ力強く首を振り、父の元へと駆けていく。するとビアンカの腕の中で眠っていたはずのガロンもぱちっと目をさまし、それを急いで追いかけていった……。
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「なあ坊主。俺な、昨日夢見たんよ。あの金玉触った……なんかやだな。あれに触ったらな、なんかごっつでかい竜がいてな、そいつ紫でやたらめったら威圧感半端無いのさ……。どうもそれ、俺の知り合いみたいなんな……んで、今の俺はまだ一番ひよっこみたいなもんなんだって……。ああ、そうそう……。あの猫な……やっぱ危ないで……。今は可愛いかもしれんが……って、まあ今の段階でかなり危険なんだけどな、まあコイツの顔みてっとそういう気がしないんだけどな……。おっ、おっ、おい、やめろよ……。こらじゃれんなって……もうかなわんわ〜……まあ、そのうちでええか……」
リョカの道具袋の中で眠るシドレーに、ガロンが甘えたいらしく爪を隠して肉きゅうでぷにぷにとその顔を踏みつける。その柔らかな感触に何を言うべきなのか忘れたシドレーは転寝を始めた……。
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「うそ……あの猫……ベビーパンサーでしょ? どうして人間に懐いているの? いくら子供だからってそんなの無理無理! やっぱりあの子、只者じゃない。うん! あたしの目に狂いはないわ! あの子こそ、妖精の国の窮地を救ってくれるはずだわ!」
紫の髪の女の子はそう言うと彼が向かうであろうサンタローズの村へと先回りを始めた……。
続く