幼年編 その二 アルパカの洞窟-1
幼年編 その二 アルパカの洞窟
オラクルベリーの北方にある町、サンタローズ。遠方より来た旅人を見て、町の入り口に立つ衛兵は身構えた。
だが、旅人が彼に手を振り親しげに「おーい」と呼びかけるのを聞いて、衛兵は目を擦り、もう一度見る。
「やあー、パパスさんじゃないか! 戻ってきたのか!」
衛兵は職分も忘れて槍を投げ捨てると、旅人のほうへと駆けて行く。
「本当は南の港への船だったのだが、オラクルベリー行きの船に乗ることになってね、少し遅れたよ」
「いやいや、無事で何より。といってもパパスさんほどの腕前の人に心配はいらないわな。ささ、サンチョさんも皆も待ってるだろうし、急いであげて……」
「ああ、すまないな……」
パパスは衛兵に軽く会釈をすると、入り口のアーチをくぐる。
「あー、パパスさんだ!」
「本当!?」
すると村のあちこちから歓声があがる。実のところ、パパスはこの村ではちょっとしたヒーローなのだ。
**――**
数年前のことだ。村の北にある洞窟の奥に魔物が現れたことがあった。それはけっして強くはないが、その存在を知る者からすれば人、魔物、妖精、ホビットを問わず脅威と知る存在だった。
強いだけの魔物ならば強い傭兵を用いればよい。だが、その魔物の名前を聞いただけで皆震え上がり、誰も名乗り出ることが無かった。
村人達はただただその脅威におびえて毎日を過ごしていた。
そこへふらりとやってきた旅人がいた。従者を一人と幼子を連れた男こそパパスだ。
彼は何かを探していた様子だが、村人のほとんどは村を出たこともなく、また書物を集めるようなこともなく、たいした情報を与えることも無かった。
そんな中、村で一番古株のドルトン親方が、彼の探すモノについてなにかしら手がかりを知っていた。前に仕事場で使っていた部屋にそのようなものがあったと記憶しており、その本に記されていた絵をパパスに知らせた。
パパスはソレをみると即座に洞窟へと走り出した。村人達が止めるのも聞かず、ただ一目散に。
そして数時間と経たず、あの恐ろしい魔物達が洞窟を出てくるのが見えた。
村人達は何事かと物陰に隠れてそれを見たが、最後にパパスが五体満足な様子で出てきたことを見て、それに駆け寄った。
パパスの言うところによると、彼らは主食となる硫黄岩を探して旅をしていたそうだ。サンタローズの洞窟にもそこそこあったわけだが、最近は枯渇し始め困っていたらしい。そこでパパスは硫黄岩の多い地方を教えてあげたというわけだ。
村人達はパパスが魔物と意思疎通ができることを驚き、また脅威が去ったことにもろ手を挙げて喜んだ。
そんなことがあったのだ。