幼年編 その二 アルパカの洞窟-9
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「べっ、べっ、べっ……」
「はぁはぁはぁ……」
外にでて濯いだ水を吐き出す二人。リョカは笑顔だが、アンは怒ったまま。
「ちょっと、なんでアンタまで濯いでるのよ……。この変態!」
「変態って、僕はただ、ビアンカに言われて……」
「んもう! 人のファーストキス奪っておいて! この変態! ロリコン! 近親相姦! 極悪人! 鬼畜! スケコマシ!」
「そんなに言われるほどかな……」
理不尽な気持ちになりながら頭を掻くリョカ。だがアンにしてみればそれは大層なことらしく、嗽を終えた後も唇を拭う。
「ふんだ! 人のファーストキス奪っておいて! だいっきらい!」
そう叫ぶと、彼女はどこかへと走りさっていった。
どうやら聖水で濯ぐだけではキスの記憶をリセットできないのは、彼女も同じらしい。問題は好きと告白した相手。ビアンカがどう思うかということであり、リョカは後ろを振り返るのが怖かった……。
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ダンカンの風邪薬を処方してもらった翌日、ビアンカ母子はアルパカへと帰ることになった。
ただ、いくら凶悪な魔物が居ないとはいえ、女子供の二人旅が危険であることに代わりはなく、パパスが送ることとなった。
「すみませんねぇ。アルパカなんて目と鼻の先なのに……」
「いえいえ、何か間違いがありましたらこのパパス、一生の深くですから……。それにまだリョカもビアンカちゃんとお別れをしたくないように見えますし……」
リョカはビアンカの外套の裾を掴み、必死で何かを弁解している様子だが、当のビアンカは取り付く島もない。
「ふふふ……そうですね……。うちの娘もリョカ君とケンカ別れになったら後悔すると思いますし……」
ビアンカの母――ジルバ・ルードはそういうと口元を抑えておほほと笑う。
「それでは参りますか」
「ええ……」
パパスが先立って歩くと、ジルバ、それに続いてビアンカも村を出る。リョカはただ情けなく「あれは事故だってば〜」と言い、その肩ではシドレーがつまらなそうに欠伸をしていた……。
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もの影からそれを見つめる女の子が居た。
「間違いないわ。あの子はきっと強い戦士! 手は多いほうがいいし、あのアンディって子も誘って三人なら……。よし、急いで報告しないと!」
紫の髪をなびかせる彼女。人とは違う、長く尖った耳が特徴的で……。
続く