幼年編 その二 アルパカの洞窟-5
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前に魔物が積みついたとき、洞窟の天井に大きな穴を開けたらしい。そのおかげで洞窟の中は意外と明るい。
もっともそれほど力強い魔物が潜んでいたというのは、この片田舎にとって恐るべきことなのだが。
「いけ! ブーメラン!」
探検を妨げる魔物目掛けてブーメランを放るリョカ。致命傷を与えることなく追い払い、そのまま奥へと進行する。
「へぇ、リョカ、前よりブーメランの扱いかた上手くなったね。前はへろへろって感じだったのに……」
「うん。練習したし」
確実に強くなっているリョカに素直に驚くビアンカ彼女はというと、台所にあったおなべのふたで襲い掛かるスライムを叩き落したりと、それなりの奮闘ぶりだった。
「ね、もしかしたら親方、例の魔物に襲われてたりして……」
「父さんはちゃんと人里はなれたところに行くように説得したって……」
「でももしかしたら……」
息を飲む二人。
ビアンカの想像通りなら、既にドルトン親方は……。
そもそも二人が対処できる程度の魔物ならば大人であるドルトンが不覚を取るはずが無い。例えば大きな怪我をしていたり、動くことも出来ない状況ならともかく……。
「ギヒャー!」
何かの叫び声が聞こえた。そして不自然に明るい洞窟の奥。何か大きな、複数の灯し火が見えるが、それらの一つが二人へと近づいてくる。
「あれは? ろうそくのお化け!?」
子供ぐらいあるロウソクに手足が生えたもの。さらに目と口、頭に火を灯し、好戦的な様子でやってくる。
「いけ、ブーメラン!」
リョカはその頭の灯火目掛けてブーメランを放つ。火はふっと消え、ロウソクの魔物は突然の暗闇にあたふたしながら壁に激突し、動かなくなる。
「あんな魔物、ここら辺で見たことがないわ!」
「けど、そんなに強くないよ。急ごう!」
「うん」
二人は急いで洞窟の奥の灯火の群れへと走った……。
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「こっちくんな! くそ! コイツに火がついたらわしもお前らも全員ドカンだぞ!」
洞窟の奥でロウソクのお化けに囲まれていたのは岩を背負ったドルトン親方。
「おやかたー! 無事ですか!」
リョカはブーメランを投げながら、ビアンカもおなべのフタで火消しをしながら急ぐ。
「おお、パパスさんの倅か……! って、いやいやいや、危ないから逃げなさい!」
「大丈夫、こいつらを倒せば!」
火の消えたロウソクの魔物は一時停止するが、まだ火の残る者が再点火することで復活する。もし倒すのならば、それは一度に「全部をやっつける」ことが重要だろう。
「それよりもドルトン親方こそ逃げてよ。そんな岩抱えてないで……!? それ、もしかして!」
ドルトン親方の背負う岩。そこにはぎろりと二つの目があり、なにが楽しいのかニヒルな笑顔が見えた。
「爆弾岩!」
かつてサンタローズの村を脅威に晒した魔物。それは爆弾岩だ。
通常大人しい魔物であり、唯一使える究極自己犠牲魔法も使うことの無い魔物だが、もし強い衝撃や炎を浴びたら、強制的にそれが発動するという、まさに爆弾なのだ。
「そんなの置いて逃げて……」
見たところこのロウソクのお化けはそれほど強い火力があるわけではない。もし爆弾岩を起爆させるにしても、数十分の余裕があるだろう。この洞窟もきっと崩落するだろうけれど、爆発の方向を出口の方に固定できるので、村への被害も小さくできるはず。
リョカはそう考えていたが、それはドルトン親方も同じだろう。だが、よくよく目を凝らしてみると、周りには親方の抱えるよりずっと小ぶりの爆弾岩が複数いるのが見える。