幼年編 その二 アルパカの洞窟-4
「ビアンカちゃん!」
「はい!」
突然の声にビアンカはまるで驚いた猫のように背筋をきゅっとさせる。
「その……キス……してもいい?」
「え? なんで、突然そんなこと言われても……」
「ねえ、駄目?」
真剣な表情で迫るリョカにビアンカは後ずさりをする。けれど、すぐに背後の壁に捕まり、拒もうと伸ばした手は優しく取られ、不自然に身体から力が抜ける。
「僕、ビアンカちゃんが、ビアンカが好きだから……」
彼のひとさし指が彼女の顎をそっと上向かせる。
「けど……んっ……」
逃げる力も拒む気持ちも無いビアンカは覚悟を決め、そっと目を瞑る。
彼の荒い鼻息が彼女をくすぐり、高鳴る胸が外に漏れるのではないかというぐらい鼓動を強める。
「ビアンカ、好きだよ……」
その言葉と一緒に右手が強く握られる。そして……。
「リョカ、父さんちょっと出かけてくるから、お留守番頼むぞ?」
「え! あ、はい!」
キス寸前といったところで突然の中断。二人とも目をぱちくりさせながらささっと身体を離す。
「ご、ごめん……」
「ばか……」
互いにソレを言うだけが精一杯。暫く二人はそのまま視線をそらしていた……。
**――**
「ねえ、どうしてビアンカちゃん、サンタローズに居たの?」
「え? ああ、パパのクスリをもらいにね……」
「そうなんだ……」
「うん。けどさ、なんかドルトン親方がこの前から戻ってこなくてさ。ずっといるんだ……」
「へえ、おばさんは?」
「ママは食堂のお手伝いしてる。私は他に行くところないし、ここの二階で遊ばせてもらってたの」
「そう」
「……」
「……」
先ほどのキス未遂が尾を引いているらしく、未だ二人は視線をそらせたままだ。たまに相手を見ようとしても直ぐに顔を赤くさせてしまい、やはりうつむいてしまう。
「ん? 親方はどこに行ったの?」
「えと、薬草を取りに村の北の洞窟……」
「あそこってまだ魔物がでるんじゃなかった?」
「そうね。でもスライムとかグリーンワームでしょ? 平気よ……」
「そうかな……。だってあそこって前にとっても恐ろしい魔物がいたって父さんが言ってた」
「でもそんな……え、でも……」
険しい表情のリョカに気おされ、ビアンカにもその不安が伝染しだす。
「父さんに知らせよう」
リョカはすくっと立ち上がると、階下目指して飛んでいく。
「あ、ちょっと待ってよ。あたしも行くってば!」
それを後からビアンカも追いかけて、二人仲良く階段を転げ落ちるわけで……。
**――**
――旦那様は北の洞窟に行くといってましたが……。
サンチョの言葉に二人は意を決して洞窟へと向かっていた。
洞窟近くの衛兵の話によると二日前にドルトン親方が向かったっきりで、今久しぶりにパパスが入っていったとのことだ。
二人は衛兵の制止も聞かず、洞窟へと入っていく。