幼年編 その二 アルパカの洞窟-2
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「旦那様、ご無事のお帰り何よりです……」
サンタローズに用意されていたパパスの借家にて従者のサンチョが紅茶の準備をしていた。
「あいにくバニア産は切らしておりますが……」
そう言って差し出されるのはキャラメルの香りのするお茶。飲むと深い甘味があり、リョカは大好きだった。
「いい匂い!」
すると匂いをかぎつけてなのか、二階からどたどたと女の子がやってくる。
「ああ、ビアンカちゃんもいたのか……。お久しぶりだね……」
「お久しぶりです、おじ様! リョカもね!」
そう言って微笑むのはリョカと同い年、一つ上の女の子、ビアンカ・ルードだ。
金色の髪を二つに結んで乱暴に縛ったもの。彼女の性格らしい大雑把なもの。
くりっとした瞳はリョカを見つけるとニヒッと口元に笑窪を作る。
ビアンカはずいずいと彼の前にやってくると、自分の頭と彼の頭の高さを手で比べ、そして不機嫌になる。
「負けた〜……」
少し前までは三センチ以上差があったというのに、いつの間にか抜かれていることにがっかりするビアンカ。リョカはたじろぎ、彼女にぺこっと頭を下げる。
「まあいいわ。リョカがあたしの年下であることには変わりないし、ちょっと背が高くなったぐらいでいい気にならないでよね!」
いい気になったつもりはないのだが、どうしても年上というだけで逆らえないのがこの年頃の子の心理。
「ねえ、リョカはまだ絵を描いてるんでしょ? 見せてよ」
「うん。いいよ。そうだ! あのね、僕オラクルベリーで人間の言葉を話すメラリザードを見たんだ! その絵を見せてあげるよ」
「人間の言葉を話すメラリザード? そんな嘘ばっかり!」
「嘘じゃないよ! ほんとだよ。ね、父さん!」
疑われたことにムキになるリョカは父に同意を求めるので、パパスもふむと首を傾げる。
「あれはリョカを叱ろうとしたときなんだが、私も面食らって話し半分になってしまったよ。いったいあれはなんだろうな? メラリザードに似ているのだが……」
パパスの同意にビアンカは「おじ様が言うのなら」と頷く。
「ね、それより二階に行きましょ? おじ様もサンチョさんと話したいことがあるだろうし、あたし達が居たら邪魔だよ。ね」
「うん」
場の雰囲気のわかるのは彼女が商売人の娘だからだろう。リョカもそういうビアンカの気が利くところが好きだった。例のワガママばかり言うお姉さんや笑顔の割りに押しの強い女の子よりも……。