幼年編 その一 オラクルベリーの草原で……。-11
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「それではルドマンさん。世話になりました」
次の日の朝、旅に戻るパパスはルドマンに別れを告げていた。
「いえいえ。パパス殿のおかげで今回の船旅も滞りなく……」
「ですがお嬢さんのことは……本当に申し訳ない」
「ルドマンさん。デボラさん、フローラちゃん、本当にごめんなさい……」
頭を下げるパパスに続き、リョカもまた深く頭を下げる。
「いやいや。今回のことはデボラにとって良い薬でしょう。無事だったのだし、なに、そんなに神妙になる必要もありません」
ルドマンは鷹揚に頷くと高らかに笑っていた。
「ねえデボラさん、本当にゴメンなさい」
リョカはもう一度デボラにそう告げるが、彼女はどんよりとした顔でうなだれていた。
「うう……フローラ、怖い……」
一体なにがあったのか? とうのフローラはこれといって何もないのだが、デボラは妙に彼女を遠巻きにしていた。
「……ねえ、あのトカゲは?」
「さあ。今日は見てないよ? どこかへ行ったんじゃない? でも一体何者なんだろう……」
「さあね」
ちっと舌打ちするデボラはちらっとリョカを見たあと、いいにくそうに口を開く。
「それはそうと……」
「なあに? デボラさん……」
「昨日のリョカ……」
「昨日の僕?」
「ちょっぴり……」
「ちょっぴり?」
「……ん〜小魚っぽい!」
「あはは……またそれか……」
肩透かしを食らったリョカだが、昨日のふがいなさは身に沁みている。これからはもっと強くなろう。そう決意するリョカだった。
そして、その二人のやり取りを見てくすりと笑うのはやはりフローラであり……。
「それでは私達は旅に戻ります。ゴルドスミス家に良い明日を……」
「ええ、グ……ハイヴァニア家に良い明日を……」
ルドマンは何かを言い直しながら二人が小さくなるまで見送っていた……。
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旅を続けるリョカ。その道具袋からひょっこり顔を出す赤いトカゲ。
周りをキョロキョロ見渡した後、再び中にもぐりこみ、寝息を立てた……。
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「ん〜……合格ラインかしら……。けど、もう少し見たほうが良いかしら? あの金髪の子のほうが魔法も使えるし、足手まといになると困るからなあ……」
もう一人物陰からリョカを見つめるものが居た。
その者は口の周りに昨日紛失されたとされるお菓子のチョコレートがついており……。