幼年編 その一 オラクルベリーの草原で……。-10
「リョカ! 無事だったか……!」
「父さん!」
ようやくやってきたパパスにリョカは走り出す。
自分の奮闘ぶり。シドレーと共に山賊と切り結んだことを話そうと。そして、それを褒めてもらおうと……。
「馬鹿者!」
頬に走る衝撃と、夜空に消える音。
「とう……さん?」
頬を叩かれたまでは理解している。そして父が悲しそうな顔をしていることも……。
「お前に何かあったら……私は、私はなんていえばいいんだ? 私はお前に強くなってもらいたい。勇敢になってもらいたい。けれど、それは無謀になれと言っているわけではない。お前の決断がお前どころかデボラちゃんまで危険な目に遭わせたんだぞ? わかっているのか!」
「ご、ごめんなさい……父さん……」
そして沸き起こる後悔の念。そう。もしボルカノ、アニスが来なければ二人と一匹は今頃……。
「そうだな。坊主もガキにしては強いけど、まだまだじゃからな……」
ようやくデボラから開放されたシドレーはリョカの肩に止まると、小刻みに震える彼の頭をぽんぽんと叩く。
「そうだけど、コイツもコイツなりにがんばってくれたんだ。俺が魔物に襲われてるところ、助けてくれたしな……」
「う? うむ? まも……の?」
陽気に話すシドレーにパパスは目をしばたかせる。長いたびの中、上級の魔物、言葉をしゃべる魔物と対峙すること数回、しかしこのようなあまり威厳の無い上級な魔物というのは記憶に無い。
「ちがうちがう。俺にはシドレーっていう立派な名前があるんだわ。ま、とりあえず、坊主も反省してるみたいだし、ここは俺の顔に免じて……」
「何が免じてよ! そもそもアンタがあたしのお菓子を食べなければこんなことにならなかったんでしょ!」
そういって再びシドレーを掴むデボラだが……。
「姉さん」
軽く肩を叩かれたデボラ。
「なによ、後にしてよ……」
無意識にソレを振り払う。
「ね・え・さ・ん?」
再び肩を捕まれる……。
「だから!」
またしても振り払おうとするけれど、振り返ったデボラの前には笑顔と怒りの四つ筋を額につけた妹が居り……。
「とーっても心配したんだからね……」
「ふ、ふろーら……ご、ごめんなさい……」
「今日はしっかり絞らせてもらうからね……」
「ご、ゴメンって言ってるじゃない! ねえリョカ、助けて!」
何かにおびえるフローラはリョカに助けを求める。しかし、彼は父の腕の中で自身の弱さ、軽率さを恥じ、ただ泣きじゃくるのみ。父はその頭を優しく撫でるくらい。
「そうだ。父さん……。ね。父さんもあたしのこと怒ってるでしょ? ね……ほら、フローラ……、父さんがあたしに話あるみたいだし……」
心配そうにしているルドマンを見るデボラ。きっと父もお小言の一つ言いたいのだろうことは察している。それはそれで面倒なことなのだが、笑顔の妹に比べればあるいは……。
「すまんなデボラ。ワシの言いたいことはおそらくフローラが言ってくれると思う。今はただ、お前の無事を安堵させてくれ」
「そんな、父さん、父さんってば! ふろーら、許してよ〜」
デボラの後悔の叫びがむなしく空に消えていった……。