A-6
「本当に…いいの?」
「もちろん!はいッ」
おにぎりをひとつ取り、哲也に差し出す。
「さ、食べよう!」
受け取ったおにぎりは、ツヤツヤで美味そうだった。
ゴクリと喉が鳴った。
「い、いただき…ます」
哲也は、ひと口頬張った。
塩っぱさと共に、お米の甘さが口いっぱいに広がった。
そこからは凄かった。あっという間にひとつ目を平らげると、二つ目をかぶり付いていた。
「んふふ…」
哲也の様子に安心した雛子。隣にしゃがみ込んで、食べ始める。
「ングッ!」
その途端、哲也が苦しそうな顔になった。
「ち、ちょっと待ってね」
雛子は、風呂敷の中から水筒を取り出し、上蓋に水を注ぎ入れた。
「大丈夫ッ?」
哲也は、奪い取るように上蓋を受け取ると、喉を鳴らして飲み込む。
「そんなに慌てなくても…」
「…こんな美味しいの、久しぶりだ…」
「…ありがとう」
雛子が笑いかける。哲也も笑った──白い歯を見せて。
「せんせえ、もう一つもらってもいいか?」
「もちろん!佃煮も食べてねッ」
暖かい校庭は、春の陽気に誘われて雲雀の鳴き声が聞こえている。
「外で食べると、美味しいね」
「うん」
二人の心が、少しだけ近づいた。
夕闇が美和野を包み込む頃、哲也の母親が仕事から帰って来た。
「ただいま」
「母ちゃん、お帰り!」
雛子の住む家と比べれば、半分にも満たない広さ。そんな中で、親子は助け合っていた。
「すぐにご飯にするからね」
土間から続く台所にある火鉢に石炭クズをくべた。
パチパチと火花を上げて、火鉢が炎を上げた。
「今日は干し芋を頂いたよ。これに入れようかねえ」
母親は、大事そうに抱えた布袋から、乾燥したさつまいもを味噌汁の鍋に入れて、火鉢にかけた。