A-2
翌朝。
「…これでヨシっと」
登校前。鏡の前で髪を束ねる雛子。元々、肩口で揃えていたのだが、“ある理由”から後ろにまとめた。
「うん、いいわ」
子供の頃に、よくやってたおさげ髪。久しぶりにやったが、よく似合ってる。
「それからっと」
雛子は納戸に行くと、重ねた行李ひとつを開けた。中には、きちんと畳まれた服が入っていた。
「え…と。確か…この辺に…」
薄暗い納戸で、雛子は何かを物色する。
「あった、あった!」
そして、何やら見つけ出すと、着ていた寝間着をその場で脱ぎだした。
「ヨシッ、準備出来た」
約10分後、寝間着を片手にした雛子が現れた。
姿見の鏡の前で、自分のいでたちに目をやった。
「うん、なかなか似合ってる」
満足気な頷き──昨夜の想いを実行する決意。雛子は、カバンと何やら入った風呂敷を持って自宅を後にした。
学校に到着した雛子。その時刻は、昨日より30分は早い。
「ヨシッ、いくわよ」
校門を潜ると、その足でコンクリートの道を奥へと進んだ。
校舎を抜け、校庭を横切り、さらに行くと、そこには大きな杉の木があった。
「あっ、いらっしゃった」
その木の陰。金網で囲まれた小さな鳥小屋があり、中に、高坂の姿を見つけた。
雛子は、笑顔で走り出す。
「校長先生ッ!」
奇声にも似たカン高い声。高坂は思わず、振り返る。
「ありゃあ〜」
感嘆が、自然と漏れた。
そこには、モンペにカスリの上着を着た雛子の姿があった。
「校長先生ッ、私にも手伝わせて下さい!」
そう云うが早いか、雛子は荷物を置いて鳥小屋の中に入ろうとする。途端に、数羽のオス鶏が彼女の足を突っついてきた。
「痛ッ!痛たたッ、ち、ちょっとォ」
その姿に目を細める高坂。
「河野さんのめんこい姿に、鶏たちもタマゲとるようですな」
そう云って笑っているが、もちろん、雛子には聞こえてない。