姫はじめ-5
「汚れちゃったね。」丁寧な手つきで手錠を外しながら荒木がそう言うと、やおら井田の脚の間に顔を埋め、隈なく舐め取り始めた。上気した赤い唇から赤い舌を垂らして、真っ白な井田の足を脛から、腿へ、そして股間へ、ちろちろと舐めまわす。井田は、そこから何か灯油でも注ぎ込まれているように、また下腹部が熱くなって来ているのを感じた。荒木が順に舌を進めて、やがて又少し上を向きかけている亀頭までを舐め尽くすと、井田は急に、両手で荒木の頭を強く下向きに押さえつけた。
「もう一回、して。」そして、静かに微笑んだ。驚いて一瞬体を強張らせた荒木は、コクリと小さく頷くと、井田の熱いペニスに夢中で武者ぶりついた。井田の丸い大きな目が、歓喜により一層大きく見開かれる。視線の先には、口の端からよだれを垂らし、目を輝かせて性的興奮に身を委ねる自らの奇怪な姿と、五体投地をする人のように蹲り、一心不乱になって性器に齧り付く益荒男の姿があった。
(ああ…また……)
頭の中が蕩けてゆく。全身が、熱い。業火が、毛髪の先までも燃え立たせている。
「はあうっ、はぁっっっっ」胸郭の奥から声にならない声を出しながら、井田は、荒木の口中に、精子のたっぷりと詰まった体液をぶちまけた。全身をのけぞらすように伸ばし切り、荒木の頭皮に、血が滲むくらい思い切り爪を立てている。荒木は、喉を鳴らしながら、次から次へと湧いてくる井田の精液を、一滴も残さず飲み干した。
二人は、肩を大きく上下に動かしながら、そのまま身を寄せ合っていた。しばらくして、荒木はおもむろに立ち上がると、満足そうに大きな伸びを一つした。それから、ゆっくりと首をまわし、周りを見渡すと、真顔に立ち返って言った。
「さーて、井田ァ、掃除しよっか。」
返事はない。
「?」
荒木が振り返ると、井田はさっきとはうってかわって、安らかな表情で寝息を立てていた。
荒木はわずかに苦笑を浮かべると、そーっとはだけたドレスをなおした。そして、いつか美術の教科書で見た天使の顔なぞを思い出しながら、一人で用具室の床を拭くのだった。