カオルA-7
一方その頃、階下の須美江は呆れ顔で晋也に話かけていた。
「やっぱりッ、あの子忘れてる」
「なにを?」
「ほら、これよ」
右手を突き出す須美江。そこには、縫いたての雑巾が2枚あった。
合宿の最終日に大掃除があるからと、用意してくれるよう頼んでいたのだ。
「やっぱり、どこか抜けてんだから…」
「まあまあ、そう云わずに持ってってやりなさい」
「ええ」
晋也に促された須美江は、真由美の部屋へと居間を出た。
「真由美ッ」
階段の下から娘を呼ぶが、返答が無い。それに、何やら声が漏れている。
「きっと、薫と騒いでんのね」
須美江は、ひとつため息を吐くと階段に足をかけた。
「まったく…いつまでも子供なんだから…」
そっと、一段づつ登って行くと、声がはっきりしてきた。
──薫。スカート履かせてあげるわ。
(えっ?)
須美江は我が耳を疑った。
(今、確かにスカートって…)
音を立てぬように階段を登ると、そっとドアを開けた。
(あああ…そんな…)
隙間から見えてきたのは、真由美の服を着た薫だった。
「薫。わたしなんかより、よっぽど女の子みたいッ」
「本当…?」
最初は乗り気でなかった薫も、カットソー越しの膨らみに笑みが溢れる。
「ほら、これも」
真由美の手のリップ。薫は傍に寄ると、ペタリとしゃがみ込んだ。
女の子のような座り方──まるで昔からそうだったように。
弟の口唇が濡れた艶を帯びた。
「こっち向いて…」
大きな瞳が真由美を見た。
身体が火照るのを姉は感じていた。
「薫…」
真由美が肩を抱いた。
次の瞬間、柔らかいモノが薫の口許を被った。
「ん…」
真由美の口唇だった。
(そんな…姉弟で…)
須美江は、それ以上耐えられなかった。
気付かれないよう階段を降りると、洗面所に駆け込んだ。
「う…うう…」
吐き気がした。涙が止まらなかった。