カオルA-4
「これ、アンタにあげるわ」
さっきのリップ。薫の顔がみるみる明るくなる。
「本当に!?いいのッ」
「でも持ってるだけよ。つけるのは、わたしの部屋に来た時だけ」
「わかってる」
それでも、薫は嬉しかった。喜びの表情のまま、真由美の部屋から出ていった。
「ふぅ…」
真由美は、制服のままベッドに寝転ぶ。思いつめた眼が、天井を見つめていた。
「どうしたものかなぁ…」
──性同一性障害。
それは居間で寛いでいる時、耳に飛び込んできた言葉。ニューステレビの特集で、医学的見地から、女性になりたい男の人を詳解していた。
(これ…一緒だ…)
真由美は、すぐに薫が浮かんだ。
「世の中、色んな人がいるのね」
居間には、母親の須美江が一緒で、父親の晋也と薫は先に休んでいた。
須美江が言葉を続ける。
「でも、よく解らないわね。精神的に異常なのかしら?」
真由美は思わず目を見開いた。
(自分の息子がそうなんだよッ!)
出そうになった声を、喉の奥にしまい込む。
「…さ、さあ。わたしにも解らないや」
真由美はひと言を残し、居間を出ていった。
(こんなんじゃダメだ。お母さんになんか云えない)
以来、ひとり悩む日々を過ごしていたが、解決策など何処にも見つから無かった。