カオルA-2
真由美が弟の“想い”を知ったのは4年前。彼女が11歳、薫が8歳の時だ。
小さい頃から大人しく、外で遊び回るよりも、自分と一緒にぬいぐるみやお人形に興味を持つ弟を、特別変だとは思わなかった。
それが決定的になったのは、真由美がお友達の誕生会にお呼ばれした時だった。
部屋で着替える真由美を、薫はジッと見つめていた。
まだ、今のように別々の部屋でなく、姉弟2人、ひとつの部屋で過ごしていた。
そんな姉に、薫はひとつの疑問をぶつけた。
「ねえ、お姉ちゃん」
「なあに?」
「お姉ちゃんは、どうしてスカート履けるのにボクはダメなの?」
「ええっ!?」
訳のわからぬ質問に、真由美は思わず奇声をあげた。
「当たり前でしょう!スカートは女の子が履くモノで、薫は男の子だもん」
「ちえっ!お姉ちゃんはいいなあ」
そんな弟を、真由美はマジマジと見つめると、
「ち、ちょっとッ」
薫の前にしゃがみ込み、不安な顔で訊いた。
「スカート履くの羨ましいって、いつから思ったの?」
真面目な顔の姉に、薫は俯き加減で答える。
「この頃…お姉ちゃんのお洋服見てたら、いいなあって思って」
拗ねた顔の弟を見て、真由美はふと、可哀想に思った。
「じゃあさ、いっぺん履いてみる?」
「いいのッ!?」
真由美にすれば、ほんの気まぐれだった。が、薫は、破顔させて喜んでいる。
「小さくなったのが有るからさ。ほらっ」
真由美が洋服タンスから、ピンクのスカートを取り出した。
「うん!」
薫は躊躇なくスカートを受け取ると、履いていた半ズボンを脱いだ。
喜び溢れる顔で着替える弟に、真由美は何とも云えない気持ちになった。
(そっか。薫は、女の子になりたいのか…)
無理も無いという思い。自分よりも女の子らしい顔の薫が、女の子の洋服を着たがるのは。
(そうだ!)
真由美の中で“ある考え”が浮かんだ。
「薫。ちょっと待っててね」
そう云って慌ただしく部屋を出ると、数分で戻って来た。
「これ…塗ってあげようか?」
手には、母親の口紅が握られていた。
「綺麗…」
細い腰を覆ったピンクのスカート。そして、濃い紅をひいた口唇。形容しがたい妖美さに、真由美の方が赤くなった。