to Heart〜I LOVE YOU-2
「おまえ、総務の仕事を心のどこかでバカにしてんだよ。誰がやっても一緒なやりがいのない仕事って決め付けてんだよ。何度も話が来るってことは、おまえじゃなきゃダメな仕事があるんだよ!バカにすんな!甘ったれるな!」
……言い返えせなかった……。
ケンボーの言う通りだった。自分の個性が生かせず、レベルが低いとこに落とされたような気がしてたんだ……きっと心のどこかで。
「やりたい仕事があっても、できないヤツだって世の中たくさんいるんだよっ!総務の仕事をやってもいないくせに、見下すな!」
ケンボーが、ハッ!っとした顔をした。
私の瞳から大粒の涙がこぼれてたからだろう。
「……ごめっ。帰る……」
止まらない涙を必死で押さえながら、店を飛び出した。
「待って!千優希!」
亜由美が急いで追い掛けてきた。
「ごめん……一人で考えながら帰る。」
心配そうな亜由美を背に、私は一人小走りに駅へ向かう。
―――恥ずかしかった。
―――情けなかった。
ケンボーの言う通り。私は総務の仕事を見下してたんだ。
やってもいないうちから、勝手に決め付けて――。
ケンボーの怒った顔が浮かぶ……。
きっと嫌われたに違いない。軽蔑したよーな顔してた……。
今度は別な涙が溢れてきた。
今度ケンボーに会う時、どんな顔して会えばいいんだろう……?
今までケンボーがあんなに怒ったことなんてなかった……。
「……嫌われちゃったぁ……。」
ネオンが滲んで、前がよく見えない。
ケンボーに嫌われちゃったら、私はどうやって生きていけばいいんだろう……?
翌日――PM5:30
重たい気分の長い一日が終わり、重たい腰をあげ、更衣室へ行く。翌日になっても腫れたままの目。
異動の件で、同じ部署の先輩や後輩たちが、部長に必死に取り下げをお願いしてくれたけど、取り下げにはならなかったらしい。それはしかたないことだろう。
気を抜くと涙腺がゆるむのは、ケンボーの昨日の顔が忘れられないから……。
……すっごく怒ってたなぁ……。
♪♪♪♪ ♪♪♪♪
更衣室を出て玄関先まで来たところで、着信音が鳴る。
ディスプレイには【藤木 健太郎】の文字。
―――どうしよう!?出るのが恐い……。
震える指先で、なんとか通話ボタンを押す。