やっぱすっきゃねん!VN-9
「さっそく、帰って藤野さんにも報告しますよ!」
「それに、川口君にも」
「川口に?」
葛城の提言に、永井は不思議がる。
「そうです」
葛城が頷いた。
「川口君はウチのエースです。そんな自分が先発から外されれば、不信感を持つハズです」
「なるほど…」
元女子大学野球でキャッチャーをやっていた者らしい、“ピッチャーを立てる”方法を心得ている。
「さっそく、川口にも連絡して納得させましょう」
永井の表情が気色ばんだ。
「でも、おそらくこの作戦。相手チームはもちろんですけど、藤野さんも思い付きませんわ」
自分の思いを受け入れられ、改めて安堵する。
「藤野さんもですか?」
「多分。予想だに出来なくて、びっくりしますよ!」
二人は顔を見合せ、声をあげて笑った。
その日の夜、葛城が予想したとおり、永井の作戦を聞かされた一哉は一瞬、言葉を失った後、高笑いをみせた。
翌日。
試合当日。数時間前のアップを終えたベンチ入り15人は、他の部員を携えて永井、葛城の前に整列した。
「今日の先発を発表する」
永井はポケットから手帳を取り出すと、軽く咳払いをして、そこに書いたメンバーを読み始める。
「1番サード乾…」
この発表に驚いたのは佳代だ。
(わたしじゃないのか…)
珍しく俯く。
県大会はもちろん、地区大会後半から“先発なら1番”が彼女のポジションだったからだ。
「…2番レフト足立…3番センター加賀…」
そして、もう一人。加賀も3番という打順に戸惑いを隠せなかった。
これまで、5番の経験は1度だけあったが、より点にからむ打順は初めてのことだった。
(やってやる…)
加賀の握る拳に力が入る。
「…5番一ノ瀬、6番森尾…」
(…今日はピッチャーだけかな?)
寂しさが佳代の胸をよぎる。弟には“どんな場面でもチームに尽くす”とは云ったが、それが現実となると気持ちの切り替えに時間がかかる。
だから、投げるまでの間に気持ちを作っていた。
ところが、
「…7番、ピッチャー澤田」
永井の言葉に、佳代の目が真ん丸に変わった。
同様に、周りの部員からざわめきが起きた。