やっぱすっきゃねん!VN-4
夜。澤田家には、いつもの賑やかしい夕食時が訪れていた。
「明日は調整だって?」
「…そうだよ」
「いつから連戦になるんだっけ?」
「え〜、2回戦が終わった翌々日から順々決勝だから…4日後だね」
真夏の夕食というのに、家族が囲むテーブルの中央には浅底の鍋とコンロが鎮座していた。
加奈特製のモツ鍋。
彼女が大学時代、テニス部在籍の際に覚えた伝統料理。新鮮な牛モツを焼酎で煮込むという本場仕込みの味は、当時のコーチに教わった。
疲労回復と持久力をつけるには最適な料理だ。
「熱い…でも最高」
佳代は、額から吹き出す汗を首にかけたタオルで拭いながら、鍋の具材とゴハンに格闘中していた。
「アンタ大丈夫?まだ麺もあるのよ」
「大丈夫、大丈夫。この位なら」
モツ鍋は、具材を食べ終えた後に、残ったスープにチャンポン麺を入れて食べるのが本番流。スープを吸った太めの麺の味は絶品になる。
加奈は、とどまる様子も無い娘の食欲を、半ばあきれ顔で見つめながら、
「ちょっと前までは“うわーッ!肥り過ぎた”って云ってたクセに」
「あれは足首ケガして部活出来なかった時でしょッ。今は元に戻ったもんッ」
そんな母親の心配を他所に、佳代は3杯目のゴハンに取りかかった。
「ちなみに、何キロ有るんだ?」
父親の健司が優しく訊ねる。 佳代は箸を持つ手を止めて、大人ぶった表情で人差し指を左右に振った。
「父さん、女性に体重訊くのってセクハラだよ」
そう云ってニヤリと笑いかけた。すると、直ぐに修の横やりが入った。
「54キロだっけ?」
「アッ、何で知ってんのよッ!」
「さっき聞こえたよ」
それは、修がバスルームの前でお祝いの言葉をかけた後のことだ。風呂から上がった佳代は、脱衣所で体重計に乗っていたのだ。
「あ、あの時アンタまだいたのッ!」
弟に食いつく佳代。一方の修は、吹き出しそうになるのを堪えながら姉の秘密を暴露する。
「“ああ、54に増えてる…何でぇ”だっけ?」
「このッ!」
次の瞬間、修の頭に衝撃が走った。佳代は耳までまっ赤にして、右手を振り抜いたのだ。
「痛ッてーッ!殴んなくったっていいじゃないかッ」
両手で頭をおさえる修。あまりの痛みに、怒りを佳代に向けた。
「いつもいつも殴りやがって!」
しかし、
「立ち聞きしてバラすなんて、恥ずかしいことするからでしょッ!」
佳代の剣幕は数段上だった。あまりの迫力におじけづいた修は身を縮ませる。
「…そんなに怒んなくったって」
「今度やったらグーで顔面だからね!」
「わ、わかったよ…」
お互いが物心ついた頃から絶えない姉弟喧嘩。そんなやり取りを優しく見つめる健司と加奈。
彼らの目には、子供達のいさかいさえも、いとおしいモノに映っていた。