やっぱすっきゃねん!VN-3
「ほう、選手だけでミーティングを?」
佳代が自宅でのんびりとした時間をおくっている頃、藤野一哉は仕事場のデスクで永井からの電話を受けていた。
「そうなんです。学校のグランドで解散しようとしたら、山下のヤツが“選手だけでやらせてくれ”と…」
「それで永井さんは許可したわけですね?」
「ええ、特に止めさせる理由もなかったので…」
報告を受けた一哉の顔からは、笑みがこぼれていた。
しかし、永井は状況に納得していない。つい、心配が口を付いて出てしまう。
「…大丈夫ですかね?変にチームワークが乱れるとか…」
「心配無いですよ。かえって良い傾向だと思います」
「何故、そう思われるんです?」
異様な口ぶりを察した一哉は、明るく快活な声を受話器に向けて、
「彼らは、自分達の未熟さに気づいたんです。そして、それを改ためたいと切望したんですよ」
そう答えて、何度も頷いた。
──ついに、ここまで来たか。
「じゃあ、あいつらは…」
「そうです。自分達の力で試合をコントロールしないと、これから先は勝てないと判断したんでしょう」
一哉の説明は、さらに続いた。
「勝つためには、“意識の統一と犠牲の精神が必要”だと解ったんです…良い傾向ですよ」
受話器から聞こえる一言々に永井は、胸中にあった不安という暗雲が消え失せた様な思いになった。
「分かりましたッ!楽しみですよ、次の試合が」
弾んだ声を残して電話は切られた。
一哉は笑みを浮かべたまま受話器を戻し、デスクに向かい直そうとする。
その時だ。
「どうしたんだ?」
今度はデスクの向こうから声が掛かってきた。
彼の上司である長友が、ニヤニヤと笑ってるではないか。
「何か…変ですかね?」
戸惑いの表情を見せる一哉に、長友は笑らいながら答える。
「だって、仕事じゃいつもしかめっ面のオマエが、これ以上無い位の笑みを浮かべてんだぞ?」
次の瞬間、長友の下品な笑い声が事務所中に響き渡った。
周りにいた仲間数人は、何事かと2人の方を振り替える。
異様とも思える空気の中、一哉だけは、いつもの仏頂面に戻っていた。