やっぱすっきゃねん!VN-2
自室に戻った佳代。バッグの中から汚れ物を出したり、着替えを用意したりと慌ただしい。
「とにかく、勝って良かったよね」
そんな姉を尻目に、修は部屋のドア近くの壁にもたれ掛かって話を切り出した。
もちろん。聞いてるかなど、お構い無しだ。
「次の相手は大丈夫なの?」
「ンー…大丈夫じゃない」
問いかけに、もっと緊張感ある想いを期待した修は面喰らった。
姉の答えは、それほど呑気としたモノだった。
「なんで、そんなこと云えるのさ?」
「…次に対戦する武蔵中は練習試合でも勝ってるし、データもかなり揃ってるから…何とかなると思うよ」
弟の拍子抜けした疑問口調に気づいた様子も無い。準備が整うと、再び修の横をすり抜けて部屋を飛び出した。
「ちょ、ちょっとッ!」
無視したように、目の前を通り過ぎていく佳代。そんな態度が修には消化不良だ。
もっと試合の事を訊きたいと、すぐに姉を追って階段を降りて行った。
「だったら、2回戦も大丈夫だよねッ」
「…まあ、変な欲を出さずに指示通りにやればイケるんじゃない」
離れず付いて来る弟の存在に、佳代はやっと違和感を覚えた。が、気にした風も無く、いつものような調子で答えると、そのまま扉の向こうへ消えしまった。
それでも修は諦めない。扉にへばり付いて、中に居る姉に向かって声を張り上げた。
「姉ちゃんッ!」
「なッ、アンタまだ居たの?」
あまりのしつこさに呆れる佳代。修は少し間を置くと、
「初戦突破おめでとう…」
感慨深い声での祝福。突然のサプライズに佳代は戸惑いが先立つ。つい、心にもないことが口をついた。
「当たり前じゃないかッ、たかが初戦で…」
素直でない言葉を残すと、逃げるように奥の風呂場へと入ってしまった。
「まったく…」
バスタブに浸かるうちに、彼女の中で勝ち得たことに対する喜びが甦えってきた。
「修のヤツ…」
お湯を両手ですくって顔を拭うと、自然と笑みがこぼれる。
「あと4つ。あと4つ勝てば全国だ…」
小さい。しかし力強い声が、風呂場に響いた。