やっぱすっきゃねん!VN-12
──いつも明るく、辛い練習にも、独特の和みをもたらしてくれるムードメーカー。
そんな佳代に、下加茂は一種の憧れを抱いていた──将来は自分もそうなりたいと。
しかし、今は、そんな雰囲気は微塵も感じない。半ばパニックの様な状態だ。
「だったら、先ずバランスを考えましょうよ!」
下加茂は笑顔を作る。何とかしたいという思いからだった。
それが佳代にも伝わったのか、今度は急に素直になった。
「ゴメン。つい愚痴っちゃって」
「いいんですよ!」
「それで?どうするの」
「直也さんがやっているのはどうです?」
直也は最初の数球、足を上げた状態で3秒間、制止してから投げていた──軸足に体重が乗った状態を身体に覚え込ませるために。
「澤田さんは、ボールをリリースする瞬間だけ指先に力を入れるよう、気をつけて下さい」
今の佳代に異論は無かった。
「分かった。軸足とリリースだね」
「澤田さんのボールなら、そうそう打たれません。自信持って下さい」
「あ、ありがと…」
「じゃあいきます!」
青葉中の攻撃は、1アウト2塁と先制のチャンスが訪れたのだが、後続を断たれて無得点に終わった。
その間、佳代はフォーム・チェックだけに神経を集中させていた。
「カヨッ!」
ブルペンに直也が飛び込んで来た。
「へっ?」
「出番だぞ」
「ええっ!もう?」
「ああ。ほらっ」
右手を突き出す。タオルとスポーツドリンクが握られていた。
「ありがと…」
スポーツドリンクを受け取り、喉を鳴らして一気に飲み干すと、タオルで流れる汗を拭った。
「3点くらいなら、すぐひっくり返せるからな。頑張れよ!」
励ます直也。しかし、佳代は無言のままタオルと空になったボトルを渡すと、マウンドに駆けて行った。
残された、直也と下加茂が顔を見合わせる。
「大丈夫か?まだ、緊張してるみたいだけど」
「だいぶ、力みは取れたんですけどねえ…」
2人は不安を抱えながら、ベンチへと戻って行った。