やっぱすっきゃねん!VN-11
「ただ今より第2試合。青葉中対武蔵中の2回戦を行います」
球場に、試合開始を告げるアナウンスが響いた。
両ベンチの選手逹が、一斉にグランドへと駆けて行く。そして、彼らを四方八方から包み込むスタンドからは、万雷の拍手と声援が発せられた。
「一同、礼ッ!」
主審の号令と共に、両チームの選手が深く頭を下げた。
先攻の青葉中は、足早にベンチへと戻っていく。後攻、武蔵中の選手逹は、グランドの各ポジションへと散った。
「下加茂、お願いッ」
「えっ!?」
佳代はベンチに戻らず、下加茂にブルペン入りを呼びかける。下加茂は不安になった。──開始前の練習で、すでに肩は出来てるのにと。
「監督…」
下加茂は永井を見た。その目は、不安を訴えている。
しかし、永井は小さく頷いた。
「初の先発で緊張してるのだろう。行ってやれ」
「分かりました」
下加茂はブルペンへと向かった。
ブルペンでは、すでに佳代がマウンドの土を均していた。
「キャッチボールはいらないから」
「でも…」
「そんな暇無いの。さっさと構えて」
いつにもない焦り。
(こんな澤田さん、初めて見た)
下加茂の胸に、不安が広がる──このままじゃ、ダメだと。
その初球。佳代は大きく上げた右足を前に踏み出した。
普段なら、そこから上体が連動して左腕が素早く振り抜かれるのだが、
(ダメだ!)
全くスムーズさを欠いた上体の動きに、下加茂は驚いた。
放たれたボールは大きく外れ、かなり手前でバウンドしてしまった。
(フォームがバラバラだ…)
下加茂は、ボールを持って佳代に駆け寄った。
「じ、時間が無いんだからさ。いちいち来ないでよッ」
表情と云い方に、余裕が感じられない。
「どうしちゃったんです?そんなに力みまくって」
下加茂は、おそるおそると訊いた。が、
「…いきなり先発云われて、力まない方がどうかしてるよ」
恨み言を呟く佳代。これも、下加茂が初めて見る意外な一面だった。