やっぱすっきゃねん!VN-10
「か、か、監督ッ!わ、わたし先発って!?」
「今日の試合、オマエが先発だ」
佳代を見る、永井の目に厳しさが漂う。
「…で、でも、順番なら直也じゃ?」
「直也には2番手を予定している。だからオマエは、後先考えずに最初から飛ばせ」
「でも…」
佳代はまだ何かを云いたげだったが、永井は無視して「では出発する」と、皆を解散させた。
(そんな…まだ心の準備も出来てないのに)
途方に暮れる佳代に、直也が近づいた。
「しっかりやれよ、後ろはオレ逹がいるからな」
「そんなの分かんないよ。初めてなんだから」
戸惑う表情を見て、直也はニヤリと笑い、
「なんだ?オレにはいつも“しっかり投げろ!”って云ってくるクセに」
からかうような言葉を掛けた。
「今ごろ、そんな皮肉返すか?」
いつもなら、小気味良く言い返すのだが、今はそんな余裕も無い。
すると直也の顔から笑みが消えた。
「そんなんじゃないよ」
真剣味を帯びた眼。
「監督も、オマエの力が必要と感じて今回の作戦を考えたんだ」
強い口ぶり。それは裏付けられた言葉だった。
昨夜、永井から受けた連絡。最初聞いた直也は、強い憤りを感じた。
──何故、オレを使わない。
永井の説明では、彼の先発は準決勝からの予定らしい。
直也は、こみ上げる思いを必死に抑える。
「オレは、必要とされてないのですかッ」
震える声が受話器に漏れた。 しかし、永井は強い口調で自分の考えを云った。
それを聞いた直也は、何も云えなくなった。
そして今、自分の想いを佳代に託す。
「オレも頑張る。だから、オマエも精一杯の力を見せてやれ」
「直也…」
並々ならぬ心中に触れて、佳代はただ頷くしかなかった。
やがて野球部員逹は、球場へと出発した。