アイヲクダサイ-3
※※※
川端恵理奈の姿はステージの脇にあった。また夢の舞台に立てたのだ。
これから発表なのだ。少し緊張していた。あれから初めての人前で発表することになる。
眼を閉じポケットのお守りをクシャと握る。どこにでもあるお守り。だが、中に入っているのは小さな黄色い花だった。
ある日、病室に置かれた花。恵理奈の母は棄てようとした。気味が悪い、と。しかし、恵理奈は断固として反対した。理由はわからない。棄ててはいけないような気がしたのだ。だから、お守りにしてもらった。
眼を開けると、拍手が起きた。
「さあ、頑張ろう」
そうして、川端恵理奈はステージへ上がっていった。
※※※
恵理奈のダンスは素晴らしかった。客席の入り口の近くで立っている男は笑っていた。
『治ってよかった』
誰に問い掛けるわけではない。ただ口にした。
そして、男は恵理奈のダンスを見届けると、静かに立ち去った。
真っ白な羽を残して――――。
End
元:ONE☆DRAFT『アイヲクダサイ』ミュージックビデオ