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恋愛小説
【純愛 恋愛小説】

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恋愛小説(5)-3



木村さんが浮気をしていた訳ではなかった、という事実が周知になったのは、十一月に入ったはじめの週だった。僕らはそのころちょうど学園祭の準備に忙しくって、そんなことは忘却の彼方へ行ってしまっていたのだが、物事は忘れた頃にやってくるもので、不意に言った村田さんの一言が周りの空気を暖かいものにした。
「水谷くん聞いて。シンジ君、やっぱり浮気してるわけじゃなかったんです」
「え?あぁ。じゃあどうして怪しかったの?」
「なんかね?私の誕生日に向けてサプライズを用意してたみたいで」
サークルメンバーがそこここに学園祭準備に勤しんでいるなか、村田さんはそう言った。そんなに大きな声では無かったけれど、皆一様に手を止めて耳を傾けていた。皆は皆で、二人の行く末を心配していたのかもしれない。
「サプライズって?確か村田さん誕生日、来月だよね?」
「うん、誕生日来る前に気付いちゃった。シンジ君の家に行った時に、スケジュール表があるのを見ちゃったの。お店貸し切ってパーティー開くつもりだったみたい」
「それで最近やたらと携帯電話をいじってたのか」
「うん、そうみたい。よそよそしかったのは、気付かれない様にって努力してたから」
「よかったね」
「うん。心配かけました」
村田さんはどこかでホッとしている様だった。僕もなんだかホッとした。誰かが幸せになるということが、こんなにも心を穏やかにさせてくれるものなのだと、僕は改めて知った。そういえば他人の幸せを心配したのは、いつ以来のことだったか。僕は僕で、ちょっとはマシな人間なれているのだろうか。

天文サークルは学園祭で二つのことを行う。一つ、大教室を借り切ってプラネタリウムを行う。二つ、中庭に陣取って模擬店を行う。この二つが大きな柱で、去年と一昨年に僕は、中庭で模擬店を行った。つまりはこういうことだ。一、二回生は模擬店。三回生から上の学年は、プラネタリウムをやる。無論、大きな主張があればどっちにグループにで行ってもかまわないが、大体が学年同士で固まるから、その構図は例年どおりというわけになる。もちろん何事にも例外はある。今回場合は、僕と葵ちゃんと村田さんにそれが当たる。
僕は会計でサークル全体の資金繰りを任せているから、自ずと模擬店側ともコミュニケーションをとるし、葵ちゃんは僕と模擬店側の架け橋役を買って出てくれた。一回生の時の学園祭で、千明がやっていたポジションだ(なぜか僕は葵ちゃんと村田さん以外の一回生から恐れられていた。僕をなんだと思っているのだろう)。村田さんは言わずもがな。サークル内唯一のカップルとしてふさわしく、木村さんの個人的な手伝いをする、といった仕事をこなしている為、プラネタリウム側に度々顔を出していた。
だから最近僕らは(何度もいうようだけどここで言う僕らというのは、千明と葵ちゃんと村田さんを含めた四人のことだ)、ことあるごとに行動を共にすることになる。葵ちゃんは模擬店側からのサポート役として僕の指示をあおり、村田さんは木村さんが居ない時に話す相手が僕ら(というより葵ちゃんだろう)しか居ないため側にいて、千明は僕の側を離れようとはしなかったから、四人は特殊な環境下でしか活動できないレズスタンスの様なスタイルで、学園祭活動に取り組んでいた。
「ちーくん、今日はなにすんのん?」
「たしか模擬店側の見積もり締め切りが今日までだったはずだから、それを調整することになるんじゃないかな」
「確かそうだったよ。ひーちゃん、一人であっちこっち仕事して、大変だね?」
「葵ちゃんが手伝ってくれるから今年は楽なものさ」
「むぅ!去年まで私が手伝ってたんやけど!?!?」
「あれ?そうだっけ?」
「あー!ちーくんのいじわるー!」
「千明先輩と水谷くんって、本当に仲いいですよね」
万事がこんな状態。壊滅的な忙しさを誇る学園祭前なのに、今年はなんだか例年とは違うのんびりとした雰囲気が僕の周りを流れている。女の子が三人も集まれば、大体がこんな雰囲気になってしまうのかもしれない。よくわからないけれど。


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