凪いだ海に落とした魔法は 1話-11
「えっ? ぁあッ…!!」
子宮の入り口を目掛け、男根を深々と突き付ける。先程までとは角度の変わった性器の刺激に、女は金属の軋むような悲鳴を上げた。熱気の隠った部屋に、肉と肉が弾けるような乾いた音が響き渡る。
「あっ…んッ……ぁうぁ……っ!」
――へえ、まだ意地張る気なのか、この女。
声を張り上げたのは最初だけだった。彼女は次第に、声帯にパラフィン紙でも張り付けたかのような籠った声で鳴き始める。辺りを憚るような遠慮がちな喘ぎを、沢崎は呆れとともに聞いていた。
この女と寝るのは、今晩で二度目である。大方、まだ出会って間もない自分に、淫らに乱れた姿を曝け出すのは抵抗があるのだろう。あるいは、年下の少年に容易く狂わされたくない、という安い自尊心の顕れか。
人の部屋で全裸になっておいて何を今更、と沢崎は侮蔑する。
まあいい。こっちはもう充分――というか、飽きた。さっさと終わらせよう。
沢崎は腰を小刻みに前後し、子宮の入り口を間断なく刺激する。平均より大きめのペニスは、それだけで充分に女の性感帯を悦ばせることができた。桃のように張った二つの丘が、打ち据える度に小さく震える。
「ああっ…――いやっ、そ、それっ…ぁあっ … あっんっ…っ んあッっ!!」
――そう言えばこいつ、痛いのが好きだったな。
五分程挿入を続けたあとで、ふと思い出し、沢崎は汗をかいた彼女の胸に手を回して、強引に上体を引き寄せた。目の前に女のうなじが迫り、甘ったるい雌の匂いが鼻孔を塞いだ。膨らみが手の間から溢れそうなほどに歪み、柔らかな弾力が指を押し返そうとする。蹂躙するように揉みしだき、桃色の先端を押し潰さんと弄ぶ。上半身は不規則に、下半身は規則的に――。
「つぅッ…そこッっ……んあっ、あぁっ…! 私っ…っ、それはぁっ……だっめッ…なのに…っ!!」
耳まで紅く染まった女が、堪えきれずに嬌声を高めた。口はだらしなく半開きで、釣糸のような涎が胸と一緒に沢崎の指を濡らす。虚ろな、しかし潤った瞳で一点を見詰めながら、腰は貪欲なまでに求めてきた。沢崎の内部に潜む欲望の権化も、徐々に下半身にみなぎってくる。
もう少しで来そうだ。そこからスパートだな、と沢崎は思った。
「あっ、ぁあああっッ……イクっ――っ!!!」
「痛っ……」
突如、空気にヒビが入りそうな悲鳴を解き放ち、女が反り返る。自身の意思では制御できない腰と膣の痙攣が、電気を流したように女の体を跳ねさせた。
――俺、まだイッてねぇんだけどなあ。
ぐったりとベッドに倒れ込む女を尻目に、沢崎は顔をしかめて口許を押さえた。射精どころか、女が背を反らせた拍子に彼女の後頭部が顔面を強かに直撃したのだ。興が削がれてしまった。口の中に鉄臭い味がする。
「マジかよお前。俺、唇切れたんだけど」
享楽の果てに待っていた鈍麻の歓迎に、女は身を委ねていた。憑き物が抜けたようにくずおれた肢体には、汗が光の粒となってまぶされている。火照った体が熱い吐息と共に微かに上下して、情事の余韻に溺れていた。
「てか、聞いちゃいねえし」
沢崎は、最早肉の塊としか見れなくなった裸体を見下ろして苦々しく笑った。愛液に濡れたまま屹立する男根とは裏腹に、情欲のたぎりは虚しく鎮火していた。