ピリオド 終編-9
「なんだ?」
「お姉さんと、スゴく仲が良いんですねえ」
突拍子もない問いかけに、オレは一瞬、言葉に詰まった。
「なんの話だ?」
「いえ…今朝もですけど、ここ2ヶ月位、しかめっ面してるでしょう」
──しかめっ面か…
「それで?」
「多分、ずっと同じ問題で悩んでるのかなって」
「……」
「その相手は、トスカーナで見かけたお姉さんかなって?図星でしょうッ」
軽薄な笑いが車内に響いた。
「おまえは喋り過ぎだ」
吉川は、オレの声に反応してカメのように首をすくめる。
「…確かにおまえの云うとおりさ。ここ3ヶ月、オレは姉の問題に悩んでいる」
先日、怒らせた事に引け目を感じたのだろうか。それとも黙っていることが虚しくなったのか、何故かオレは亜紀のことを話していた。
「すいません…」
気まずい静寂が降りた。
だがオレには、冒頭の言葉の方が気になった。
「それより、オレの考え方は異常に見えるか?」
「な、なにも異常だなんて…」
「いいから、答えてみろ」
吉川は答えた。
「その…いくら仲の良い兄弟でも、ベッタリなのは子供のうちだけで、次第に相手の事を干渉しなくなると思うんです。
まして、生活基盤が別々になれば尚更だと…」
「オレのようなパターンは珍しいと?」
「ええ。私の友人達もそうらしいですが、兄弟が異性、その上、成人してたら全くっていい程、互いの事は干渉しないのが普通ですよ」
視線は前方を見据えたまま、まるで“当たり前だ”と云わんばかりに何度も頷いている。
(世間から見れば異常か…)
オレは、後輩にまで自分の考えを否定された。が、不思議と腹立たしさはなかった。
物心ついた頃から姉を想い、“あの時”から姉ではなくなった。
何度も何度も忘れ去らなければと思ったが、それは心の底で燻り続け、今日まで消え去ることはなかった。
それをズバリと指摘されたわけだ。
(ダメな男だ。オレは…)
「すいません、つい、調子に乗って」
「気にするな、おまえの云うとおりだ」
「エッ?」
「オレは昔から“姉ちゃん子”でな、今でもそうなのさ」
吉川が驚きの表情でオレを見た。