ピリオド 終編-8
「あ、あのさ姉さん」
「なあに?」
わずかに傾げた首。
「あ…いや、何でもない」
「なによ変な子ねえ、云いたいことがあるなら、ちゃんと云いなさいよ」
「本当に何でもないんだ、行って来るよ」
「なによ…それ?」
結局、竹内との事を伝えられぬまま、オレはアパートを飛び出していた。
外は震えが走るほど、空気が冷えていた。
駐車場からバス停へと向かう道。吹きだまりに折り重なった落葉に、白いモノがうっすらと残っている。
(もう冬だな…)
お袋に騙されて実家に帰ったのは、まだ夏の装いの頃だった。
(あれから3ヶ月半か…)
二つの季節が過ぎ去る期間、オレはただ、亜紀の幸せを願ってきた。
それも今夜までだ。
竹内と話し合い、納得し合えれば別居生活も終わりを告げるだろう。
(そして、オレの役目も終わる…)
亜紀は実家に戻り、新しい生活をスタートさせる。
そこにオレの存在は無い。
(今度こそ本当に終わりだ…)
ようやく見えた光明。嬉しさを感じるハズなのに、オレの気持ちは逆に晴れなかった。
「ありゃ〜、こりゃ降ってきますねえ」
吉川がクルマの窓越しに空を見て嘆いた。
朝から垂れ込めていた鈍色の曇は、夕方を迎えてさらに厚みを増していた。
「予報どおりかな?」
「そうですねえ」
気温は朝から上がらず、逆に下がっていた。
「とりあえず、外回りは終わったから社に戻ろう」
「帰宅するまで降り出さないでほしいですね」
「まったくだ」
クルマは一般道から幹線道路に入った。早く帰りたい思いは皆、同じなのだろう。いつもよりクルマの量が多い。
「ところで先輩」
ノロノロと進むクルマを運転しながら、吉川が話しかけてくる。