ピリオド 終編-7
――このまま前に進めば、隠している事を知ってしまいかねない。
自らの本心のいやらしさ。
“問題を円満に解決したい”と思っているのはあくまで建前であり、心の奥底に潜んでいるのは、スキャンダルに飛びつくテレビレポーター同様の野次馬根性かも知れない。
亜紀や竹内の目には、オレの底浅い考えが見えていたのだろうか?
「情けねえや…」
「何か?云いましたか」
突然の声にオレは驚いた。
いつの間にか向こう隣のデスクに吉川は座り、首を傾げてこちらの様子を窺っているではないか。
「おまえ…いつからそこに?」
「たった今です。事務所に来たら、先輩が難しい顔して座ってるのが見えたんで…どうしたんです?」
「何でもねえよッ!」
動揺を悟られまいと、語気が荒くなる。
「それより、昨日のうちに部長の印はもらったのか?」
「あ、はい。ここに」
「だったら行くぞッ!」
オレは席を立つと、今までの思考を頭の片隅へと追いやって、事務所を後にした。
それから3日間は、瞬く間に過ぎた。
「初雪だって、やあねえ」
出勤前の慌ただしい時間。
亜紀は朝食を摂るオレの向こうに座り、テレビの天気予報に顔を曇らせている。
「今日から師走だからね…」
答えにもならない言葉を返しながら、オレは頭の中で迷っていた。
今夜、竹内と会う事を伝えるべきだろうかと。
当初は直ぐに伝えるつもりだった。しかし、話し合いが不首尾に終わった時のことを考えると、伝えられないまま今日を迎えてしまった。
事前に知れば、良い結果を期待してしまう。そして不首尾に終わった場合の落胆は、いきなり結果のみを知るより重いだろう。
「じゃあ、行ってくるから」
朝食を終えて、オレは玄関に向かった。
「ちょっと、忘れ物ッ!」
慌てた声が背中に掛かる。
「ホラッ、クルマの鍵」
右手に握ったキーホルダーを目の前に突き出す亜紀。
「あ…ああ、今日は要らないんだ」
「要らないって…?」
意味が解らないと困惑した形相を向けた。
「今夜は…仕事仲間と飲みに行くんだ。だから置いていくのさ」
咄嗟に出た言葉に、亜紀は訝しげに“ふうん”とだけ云った。