ピリオド 終編-5
「…そ、その前にさ…オレに義兄さんと話させてくれよ」
「アンタが出しゃばってどうするのよ?」
「とにかくさ…当人同士、まして義兄さんの実家でそんな話をしたんじゃ、姉さんが全て悪者になっちまうだろう?」
「わたしは全然、構わないわよ。それで離婚出来るなら」
感情がヒートアップしだした。ここは冷静な思考をさせないと、亜紀に不利に働いてしまう。
「姉さんは良くても、親父やお袋にまで迷惑掛けるだろう。それはマズいよ」
「……」
“両親”という言葉に亜紀は口ごもってしまった。
咄嗟に口から出たが、思った以上の効果をもたらしたらしい。ここは畳み掛けるしかない。
「それに義兄さんも、自分の両親の前じゃ本心を云え難いと思うんだ。
だから、この間みたいにさ、オレがサシで話してみるよ。それでもダメな場合こそ…なぁ?」
亜紀は、しばらく難しい顔でオレの考えを頭の中で思案すると、
「…分かったわ」
深いため息を吐いて納得してくれた。
「よ、良かった…さっそく今日にも連絡を取って、日程の調整するよ」
なんとか約束を取りつけて、オレは慌ててアパートを出てクルマに向かった。
運転席に乗り込んだ時、頭の中に亜紀の言葉が甦った。
──アンタはそんなコト考えなくて良いの。
あの時は堂々巡りになった言葉。でも、それは姉の想いであって、義兄の考えは違うかもしれない。
(上手くいけば、“パズルのセンターピース”が埋まるかも…)
クルマの窓は冷気を固めたように白く固まり、冬の訪れを物語っていた。
早めにアパートを出たおかげで、出社した事務所には、まだ誰も居なかった。
オレはさっそく受話器を取り竹内に連絡を入れた。
数回のコールの後、接続音が聞こえた。
「あっ、義兄さん?」
相手は直ぐに出た。
「どうしたんだ和哉君?こんな朝早くに」
「実は、会って話を聞いて欲しいんだ」
オレは趣旨を説明した。
亜紀の想いを詳細には伝えられないから、会う必要が有ることだけを必死に説いて。
しかし、受話器に聞こえてきたのは拒否の言葉だった。