ピリオド 終編-34
「他に云うことないの?わたしに」
「…これ以上…何を…」
強気な笑い顔。つられて笑おうとするが、上手くいかない。
「もうッ!アンタって、本当にダメねえ」
「…そんなこと云ったって」
「離婚の傷心を胸に旅立つ、姉に対して云うことがあるでしょ!?」
ちょうどその時、次の列車が入ってきた。
「知らなかったよ。姉さんが美容師になりたいなんて…」
「26歳。オールド・ルーキーで頑張ってくるからね!」
希望に満ちた目がそこにあった。
「姉さんなら大丈夫さ。オレが保証する」
「“ダメな弟”に保証されてもねえ」
亜紀がベンチから立ち上がる。オレは、傍らのキャリー・バッグに手を伸ばした。
「いいわよ。大したモノ入ってないから」
「運ばせてくれ。最後だから」
「そう…」
ベンチからホームへのわずかな距離。オレ逹は無言で歩いた。
乗降口に差し掛かる。
「ありがとう…」
亜紀の手がオレの手を取った。
「姉さん…?」
両の手が、優しく包み込んだ。
「…もう“普通の姉弟”だからね」
「…分かってる」
「わたし逹…」
無粋なベルが鳴り出した。発車の予鈴だ。
その時、オレを見る亜紀の目から涙が落ちた。
「姉さん?」
「わたし逹…なんで姉弟なんだろうね…」
──えっ?
ひとことを残して、亜紀は乗降口の奥に消えた。
「あ、亜紀ッ!」
ドアが閉じた。
列車が動き出した。
オレはただ茫然と、過ぎ行く列車を目で追うだけだった。
(後悔するなって、絶対ムリじゃないか…)
最後に聞かされた言葉。それは最期だからこそ、心情を明かしてくれたのだ。
(ずっと一方通行だと思ってた。けど、そうじゃなかった…)
おそらく、亜紀は戻らないつもりなのだろう。全てにけじめを付けて行ったのだから。
だったら、オレもおしまいにするよ。
(これからは、少しでもダメな弟を払拭しなきゃな)
再び誰も居なくなったホーム。
オレはひとり、引き返す。
『ピリオド』完