ピリオド 終編-33
「だったら、な、何で云ってくれなかったんだッ。姉さんはいつもそうだ!
肝心なことは何ひとつ教えちゃくれないッ」
こんなつもりじゃないのに、笑って別れたいのに。わがままさが、前に出てしまう。
そんなオレに、亜紀は表情を変えた。──悲しげな顔に。
「…まだ、時間はあるわね。少し話そうか?」
亜紀は時計を見つめて、ベンチに腰掛ける。オレも隣に座った。
「今さら、何の話だよ?」
心にもない言葉が出ちまう。
「ねえ和哉?」
「何だよ?」
「その肝心なこと…聞いた後で後悔しないでね」
なんだ?この回りくどい云い方は。
「内容によるよ」
「そう…」
亜紀は、黙ってしまった。
明らかに、話出すのを躊躇っている。
「分かったよ。後悔しない」
オレは笑みを作った。
「本当に?」
「ああ、絶対に」
「わかった」
亜紀も微笑み、視線をホームに移した。
「…わたしが、離婚した理由は知ってるよね?」
「ああ。不妊が主な原因と思ってるけど」
ホームを見ていた顔が俯く。
「わたしね…妊娠…したことあるの…」
「えっ?」
──なんだって!
想像すら出来ない事実を前に、オレの心はかき乱される。
「それ…いつ?」
「高校の時…」
「じゃあ…オレ逹の…」
「……そうね」
お互いが高校生になった時、ある日をさかいに亜紀はオレを拒むようになった。
オレはただ、“許されざる行為”に後ろめたさを感じたとしか思ってなかった。
(そうじゃなかったんだ)
涙が出て仕方なかった。
「…堕胎して…そして産めない身体になった…」
「…ごめん……ごめん…姉さん」
「まったく…」
ハンカチを握った手が、オレの顔を撫でていく。
「やっぱり…ダメな弟だね」
「…そんなこと…云ったって…オレは姉さんの一生を…」
「もう終わったことよ。それより…」
小く、細い手がオレの肩を掴んだ。