ピリオド 終編-3
「考え事は済みましたか?」
食事を済ませて帰って来やがった。時計を見れば1時前5分。
「だから云ったじゃないか、遅れても良いって」
「えっ…?」
「もう少しで解るハズだったのに、おまえのおかげで忘れちまったよ」
結論の出ない苛立たしさに、オレはつい、悪態をついてしまった。
途端に、吉川の表情がみるみる青ざめた。
「いい加減にしてくれませんかッ!」
低く、震えた怒声が返ってきた。
「気持ちは解りますが、それって公私混同でしょ?止めてもらえますか」
向けられた言葉が、オレの心を深く抉った。
「どうしたんです?常日頃から“オンオフの区別を付けろ”って言っていた先輩が…」
吉川が新人の頃から叱りつけてきた言葉で、自分がドヤされる日がくるとは思っても見なかった。
「…すまん。おまえに甘えてたな」
「いえ…ただ、先輩がご家族のことで悩んでらっしゃるのは解ります」
「とにかく、この話はやめだ。クルマを出してくれ」
「ハイッ!」
吉川は一転、声を弾ませた。
キーを捻ってエンジンをかけると、クルマをバックさせて駐車場から公道へと戻す。
「情けねえや…」
思わず、頭に思い描いたことが口を付いた。
「何か云いましたか?」
「何でもないよ。次は〇〇区の〇〇ビルだ」
「はいッ」
助手席から窓の外を眺め、流れる景色に目を移す。自分のいたらなさに腹が立った。
後輩に対して、明らかに配慮に欠ける愚行。
(これじゃシスコンじゃねえか…)
そして、いつまでも拭い切れない自分の心に苛立たしさだけが残った。