ピリオド 終編-22
実家に連絡してからの10日間。オレは、吉川と共に残務整理と挨拶回りの日々を繰り返していた。
「それでは、よろしくお願いいたします」
それも今日で終わる。明日と明後日の土日で、移転先へ荷物を送れば、後はいつでも仙台へ旅立つ準備が出来た。
「先輩、いつ発つんですか?」
移動中、吉川が訊いた。
「前の日の朝だな」
「何か、ボクにお手伝いできることは?」
「ないよ。引っ越しは業者に任せたから」
「じゃあ、何時の列車に乗るんです?」
相変わらず首を突っ込みたがる。コイツの気持ちは嬉しいが、正直、ありがた迷惑だ。
「そんな暇あったら仕事しろ」
「でもッ!」
「これからは、オマエが会社の顔としてお客と会うんだ」
この言葉に、吉川は不安な顔ながら頷いた。──分かっているようだ。
「先輩…」
「なんだ?」
「…ありがとうございました」
「どういたしまして」
暖かな夕陽に染まる街中を、クルマは西に向かっていた。
「今日は早く帰れたな」
最後の引き継ぎをスムーズに終えて、オレは珍しく早い時刻に帰宅した。
「しばらくは、外食とコンビニだな」
食器類や衣類は必要分を残して梱包しているし、家具類は実家に、しばらく預かってもらうように頼んだ。
赴任先は社宅のようなアパートなので、家具や洗濯機は揃っているそうだ。
梱包したモノを運び出せば寂しい部屋になるだろう。
「とりあえず、飯だな…」
夕食を買い求めに、コンビニに行こうとした時、ポケットの携帯が震えた。
ディスプレイには、“実家”の二文字。
(お祝いの件かな)
わずらわしく思える。
「もしもし?」
「和哉、亜紀よ」
「姉さん、せっかくだけど、お祝いは…」
亜紀は、醒めた口調で声をかぶせてきた。
「いいから、これから来てよ」「えっ?」
用件だけ伝えると、一方的に電話を切ってしまった。
(まただ…人の都合も知らないで)
「クソッ!」
オレは、クルマのキーを握りしめてアパートを出た。
「いつもこうだ!」
闇の中で、アクセルを踏む足に力が入る。