ピリオド 終編-21
オレは、唯ひとつ残る疑問をぶつけた。
「部長。行くとなると、どのくらいでしょう?」
「そうだな…最低で2年、業績によっては、それ以上と考えてくれ」
これで迷いは消えた。
「部長。慎んで、お受け致します」
この決定に、部長はことのほか喜んでくれた。
「そう云ってくれると思ってたよ!」
オレの両手を取り、強く握りしめた。
「辞令は4月1日付けだ。それまで、残務整理をよろしくな!」
「わかりました」
応接室を出て戻ると、今度は課長が待っていた。
「話は聞いている。ついては、残務整理と後任の件だが…」
「分かってます。吉川でどうでしょう?」
オレの提案に、課長は頷く。
「そうだね。吉川君なら、君の後任に相応しいな」
残りの2週間。後は吉川への引き継ぎと、営業先への挨拶回りをすれば終わりだ。
心はすでに、千数百キロ離れた未知の場所への希望に膨らんでいた。
唯、一片を除いては。
「そんな話、聞いてないわよッ!」
受話器に響く母親の声。
「だから、今、云ってるじゃないか!」
内示を受けた夜、オレは実家に連絡を入れた。
主に伝えたかったのは異動の件。だが母親は聞いた途端、声が狼狽えている。
「仙台って、なんで、アンタが…まさか左遷?」
「変に考え過ぎだ。会社に勤めてりゃ、異動なんて当たり前なんだよ」
なんとか母親に納得させて、電話を切ろうとした時、
「あ、ちょっと待って。亜紀が替わるって云うから」
話したくない声が、受話器から聞こえた。
「こっちは、いつ発つの?」
「おそらく前日だろうね。色々あるから」
「そう。だったら、その前にお祝いしなきゃね」
「えっ?」
どういう意味だ?
「栄転なんでしょう?」
「そ、そんなの判りゃしないよ」
そういうことか。
「遠慮しとくよ。オレも出発前に色々あるからさ…」
「まあ、いいわ。決まったら連絡するから」
意味深な言葉を残し、亜紀は電話を切った。
「ちょ、ちょっと…」
こっちの予定なんぞ、気にもしてない。
「参ったな…」
苦い味が、口に広がった。
「オレの気持ちなんぞ、考えもしないで…」