ピリオド 終編-20
「…夢を見てたんだ。オレが病気がちだった頃の」
「そう…」
亜紀の目が柔和になる。
「いつも寝かされてるオレに、姉さんは色んな友達を紹介してくれたね」
「…そうだったわね」
「夢の中で姉さんに抱きしめられたよ。“ずっと一緒だよ”って云われながら」
「…あの頃のアンタは、青白い顔をしてたね。わたしには、今にも消えてしまうんじゃないかと思えて… 」
回想する言葉に、オレは複雑な気持ちになった。
「確かに、そうだったな」
後に両親から明かされた話で、オレは長くは生きられないと医師から告げられていたそうで、表面では明るさを装いながらも、その内面では悲観に暮れていたそうだ。
そんな中で、亜紀のオレに対する言動に、“どれだけ励まされたか分からない”と振り返っていた。
「オレも、姉さんの励ましがあったから頑張れた…」
「どうしちゃったの?急にそんな話をするなんて…」
亜紀は異様さを感じ取ったようだ。
「いや、何でもない。夢があまりにリアルだったからさ、つい…」
「だったら、その泣き顔を洗ってらっしゃい。ごはん、出来てるから」
「わかった」
言われるまま、ソファから這い出て洗面所に向かった。
「なんて、しまらない面なんだ」
アルコールでむくんだ己の顔に手を当てながら、
(あの時、死んでりゃよかった)
つい、本音が晒け出た。
「帰りました〜ッ」
3月の半ば。
益々、陽気さは春めいて来て、桜の開花予想など聞こえるようになった。
昔の夢を見た日から、2週間が経とうとしていた。
そんな折、
「〇〇君、ちょっといいかな?」
営業部長がオレを呼び止めた。
「転勤…ですか?」
広い応接室で云い渡されたのは、異動の内示だった。
「君も、入社して来月で8年目。そろそろ上のポストをと思ってね」
話によれば、係長待遇で仙台支店に行ってくれとの事だ。
「正直、仙台では苦戦してる。だからこそ、君のような若い者に頑張ってもらいたいんだ」
心の中で迷った。が、別の考えが頭をもたげた。
──これで、忘れられるかも知れない。