ピリオド 終編-2
翌日、昼。
「すまんが、そこに寄ってくれないか?」
営業廻りの途中、オレはクルマを運転する吉川にコンビニの看板を指差した。
「コンビニで何を買うんです?」
案の定、コイツは不可解と云った顔で絡んでこようとする。
「昼飯を買ってくるんだ」
「だったらボクも…」
「おまえは、何処に食いに行って良いぞ」
「先輩…」
オレを見る吉川の目には、“仔犬が主人に置いてきぼりを喰らった”ような憐れさが漂っていた。
「考え事をしたいんだ。おまえに横に居られちゃ、気が散って出来ないからな…」
つい、掛ける言葉がぞんざいになっちまう。
「分かりました。13時には戻りますから…」
「少し遅れたって平気だよ」
吉川は小さく頷き、クルマとオレをコンビニの駐車場に残して、その場から立ち去った。
一線を引かれたことに、ひどく落胆した様子に見えた。
しかしこんなこと、誰にも打ち明けられるモノじゃない。
――アンタはそんなコト考えなくて良いの。
この意味はなんなんだろう。
亜紀と竹内が離婚する理由を知ったオレに、まだ何かを隠しているのか。それとも、酔っぱらいの話は聞けないというポーズだったのだろうか。
(しかしポーズにしては、あの目…)
買った弁当を食べながら、様々なことが頭の中を駆け巡る。やはり亜紀は、まだ何かを隠しているようだ。
(…あの目は何かを訴えていた)
昨夜、明らかになった離婚の理由は亜紀の不妊が主な原因だと聞いた。
しかし、竹内の方は亜紀と一緒なら家業を捨てても良いとまで云っている。
(…昨日は酔った勢いで結論を急いじまったかな)
もし子供が出来ないことが原因だとして、夫婦が別れるだろうか?
確かに、そういう夫婦がいることを否定は出来ないが、それが亜紀や竹内にあてはまるとは考えられない。
お互いに20代後半。
片方が不妊だからといって、簡単に諦めるだろうか?
医療の進歩は目覚ましい。治療の可能性を見限るには早急すぎる。それにいざとなれば、養子縁組みをするという手も有るはずだ。
(家業の辛さも、竹内の仕事に賭ける想いも知ってるハズなのに…)
継続させる為の、すべての選択肢を捨てて離婚と結論づけた動機は、何なのだろう?
(ますます解らない…)
まるで、パズルのセンターピースだけ欠けているような、そんなモヤモヤとしたモノだけが頭に残ってしまった。
悶々とした時間を過ごしていると、ドアのむこうに吉川の姿が見えた。