ピリオド 終編-16
買い物から戻って2時間あまり。リビングに響く亜紀の声。
「出来たよ〜ッ!」
運んで来た料理に、オレは懐かしさがこみ上げた。
煮込みハンバーグにポテトサラダ。小学生の頃からの大好物。
「…よく、こんなの覚えてたな」
「アンタの好物くらい、何でも知ってるわよ」
亜紀はニコニコ笑いながら、冷蔵庫から冷えた缶ビールをテーブルに置いた。
途端に、おかしさがこみ上げてくる。
「まったく、姉さんには負けたよ」
「何よ?それ」
バツの悪そうに頬を赤らめる。最初から、ここに泊まる魂胆だったのだ。
「クルマは?親父は使わないのか」
「明日はいらないって」
クルマの御披露目は、口実だったわけか。
「いただきます」
「どう?味は」
微妙にデミグラスの差は感じられたが、不快さはない。
「うん、母さんとは違うけど、美味しいよ」
むしろ味付けの差が、別の美味しさを感じさせる。
「そう思ってくれたなら、良いけど…」
「同じ材料でも、母さんと姉さんは違うさ。気にすることじゃないよ」
次にポテトサラダをひと口。
「どう?」
亜紀は息を詰めて、こちらを窺っている。濃厚な味が口にひろがった。
「うん。オレはこっちの方が好きかな」
「本当に?」
「母さんはマヨネーズをケチってたからね。だからコクが足りなかった」
「これも、マヨネーズはそんなに入れてないのよ」
「えっ?」
驚くオレ。亜紀は笑顔のまま頷く。
「替わりにヨーグルトと粉チーズを入れるの。普通のポテトサラダより、3割くらいカロリーを抑えられるのよ」
「へぇー、これが」
感心しながら、もうひと口。味付けでゴマカシてるとは、解らないほど実に深い味だ。
オレは料理に貪りついた。ひと口毎に、昔の思い出が頭に浮かんだ。
「しかし、姉さん?」
「なあに?」
亜紀は自作料理に納得しながら、自分のグラスに注いだビールを傾ける。
「この間から云おうと思ったんだが、料理なんて、いつ覚えたんだい?」
「アンタ失礼ねえ、わたしだって料理くらい…」
「でも、結婚する前、実家で料理してる姿なんか見たこと無かったよ」
「その前に独り暮らししてたでしょッ」
なるほど。必要に迫られて覚えたって訳か。