ピリオド 終編-15
「…やっと終わった」
午後をかなり回った頃、全ての掃除が終わった。
「洗濯物が乾くまで、もうちょっと掛かるわね」
「ひとりじゃ1日がかりと思ってだけど、姉さんのおかげだ」「そんなこと無いけど…」
亜紀は、謙遜した言葉の後にニヤリと笑った。
嫌な予感。
「な、なんだよ?」
「前も云ったよね。感謝はカタチで表すモノだって」
やっぱり。
「でも…土日のトスカーナは予約客でいっぱいだから」
「あ、それなら大丈夫」
嬉しそうな瞳。何かを企んでやがる。
「とりあえずラーメンでも食べに行ってさ。それから買い物に行きましょう」
「ええっ!」
つまり、ここで夕食を食べるつもりなのか。
「…そのためにココに来たのか?」
オレは素朴な疑問をぶつけた。すると亜紀は、思い出した表情を見せる。
「それもあるけど、本当はクルマを見せに来たのよ」
「クルマ?」
「ちょっと来て!」
手を引かれて表に出ると、駐車場の来客用スペースを指差す。
「あのクルマよッ!」
女性らしい小型車。シルバーというのが少々、気に掛かるが。
「アレ、姉さんが買ったのか?」
「違うわよ。アレはお父さんのクルマ。昨日、納車したの」
「へぇ、あの親父がねぇ」
“クルマはセダンが一番”という考えから、今までセダン以外乗らなかった親父が、小型車に乗り替えるとは。
「人を乗せることが少なくなったからね。大きいクルマは無駄だって」
「で、姉さんは御披露目に来たわけか?」
「そうよ」
ここで、再び疑問が湧いた。
「どうして来たんだよ?」
「どうって、アンタに新車を…」
「そうじゃなくて。いつ、免許取ったんだよ?」
「1年くらい前かな。もっとも、ペーパー・ドライバーだけどね」
亜紀は答えて白い歯を見せて笑っている。
「ホラ、急ぐわよ。わたし、お腹ペコペコなんだから」
「わ、わかったよ」
まったく。現れる度に、こっちのペースを狂わせやがる。
オレは亜紀の運転するクルマに乗り込み、街中へと向かった。
消えていた燻りに、また小さな火種が点いた。