ピリオド 終編-14
3月を迎えた。
未だ寒さは強いが、昼間の陽気が春の訪れが近いことを教えてくれる。
「これはウールだから、ネットに入れて…と」
土曜の朝。休みのオレは家事に追われていた。
洗濯機は、すでに2度目の運転に待機中。脱衣所には1週間分の汚れ物が溜まっていた。
他にも、台所や部屋の掃除が順番を待っている。
「こりゃ、今日中に終わるかな…」
モップで廊下を磨きながら、気持ちが不安になった。
亜紀が出ていって2ヶ月足らず、洗濯はまだしも、他は手付かずのままだったのだ。
「まったく…昔を思い出すぜ」
部屋の汚れは心の汚れ──野球部監督の口癖。
それを知った亜紀は、毎日のようにオレの部屋を訪れて、掃除を強要した。
「あの時は、我が姉ながら、苦々しく…!」
そんな思い出にひたっていると突然、チャイムが鳴った。
(誰だ?こんな朝っぱらから)
チャイムは2、3度と鳴りを止めない。
「わかった、わかった!今出るから」
開けたドアの向こうには、見馴れた顔があった。
「…ね、姉さん」
「久しぶり!元気してた?」
亜紀は明るい顔を見せた途端、眉間にシワを寄せた。
「何?この匂い」
「えっ?」
「生ゴミみたいな匂いがするぅ」
そう云うが早いか、亜紀はオレを押し退けて部屋に上がった。
「何よ、これぇ」
最初に見たのはキッチン。そこからバスルームにトイレ、寝室、リビングへと駆け回る。オレはただ、その後に付いていく。
「何やってんの!使った鍋や食器は流しにそのまま、バスタブも便器も洗ってないッ、部屋は散らかしてホコリ溜めてッ」
久しぶりの再会なのに、頭から怒鳴られるとは。
「ホラッ、これ!」
「なんだよ、これ?」
亜紀は、財布から1万円札を取り出すと、
「アンタは、洗剤とゴム手袋を今すぐ買ってくる!」
威勢のよい声が返ってきた。さすがに、こちらが呆気にとられる。
「手伝ってくれるの?」
「しょうがないでしょ!まさか、弟がゴミ屋敷に住んでるとは思わなかったわよ」
「わかった!」
オレは慌てて服を着替えて、部屋を出た。