ピリオド 終編-13
「先輩、今日はこれで終わりですか?」
吉川が、缶コーヒーを買って戻ってきた。
「一応そうだが、もう何件か回らないか?しばらく顔を出してない箇所もあるし」
「分かりましたッ」
ハツラツとした声が車内に響き渡る。
2月の半ば。冬空の景色の中で、オレは仕事に走り回っていた。
新しい年を契機に、オレの周りには変化があった。
亜紀がアパートを出て、実家に戻ったのだ。
オレは再び、ひとりとなった。が、今度は前のような寂しさは感じなかった。
前とは初秋からの数週間を一緒に暮らした時だが、あの時のひとりは、正直、寂しい思いがした。
だが、今回については、なんというか虚脱感の方が心に広がった。
抱えていた悩みを全て解決した達成感と、終わったことの虚しさ──燃え尽き症候群。ではないが、気持ちが空っぽになっていた。
(久しぶりのひとりだ。のんびりやるさ)
──もう、ひとのために動くのは辞めよう。
もっとも、プライベートなことで、これだけ動くことは、もう無いだろうが。これからしばらくは、自由気ままに過ごそうと決めていた。
それから、ひと月あまり、
「ひとつ良いですか?」
ある日の午後、吉川とオレは営業車の中で缶コーヒーを傾けていた。
「なんだ?」
「怒らないで聞いて下さいよ」
「だから何だ?もったいぶらずに云ってみろよ?」
「最近、なんというか…穏やかになりましたね」
こんな言葉を、後輩から受けるとは思ってもみなかった。
「なんだよ?そりゃ」
「以前は、その…辛そうだったのが、今は見受けられないので」
なかなか鋭い勘だ。
「吉川、ひとつ良いことを教えてやろう」
「何ですか?」
「オマエの詮索好き、あまり度が過ぎると命取りになるぞ」
オレの忠告に吉川は唇を尖らせる。
「他人にはな。詮索されたくない部分ってのがあるんだ」
「分かりました…すいません」
「この話はこれで終わりだ。先を急ぐぞ」
クルマは、駐車場から公道へと走りだす。オレは向かう先、数社と連絡を取った。
不思議と“燻り”はどこかに消え失せていた。